点眼の自立に向けての関わり
〜点眼器を紹介しての試み〜

病院 看護部 5階病棟 中村華恵・齋藤由美子

1.はじめに

 眼科における点眼は治療には不可欠である。患者の多くは当病棟に入院し、手術を目前に安全で確実な点眼方法の指導を受ける。そこで、点眼薬の滴下ができる固定器具はないかと模索していた。2年前、こうした患者に用いる点眼器が市販されているという情報を得て、使用の試みを行った。今回、患者全員に点眼器を紹介し、点眼器の適応を明確にすべく、安全・安楽に全員が点眼手技自立に至った要因を明らかにする。

2.研究方法

(1)対象

当院5階病棟に入院した白内障手術目的患者50名(明らかに上肢機能の障害がある患者と、点眼するという認識が無い患者4名は除外した)

(2)期間

平成12年6月中旬〜平成12年12月

(3)方法

ア 入院時に担当看護婦が点眼器の説明をし患者へ点眼器の選択をしてもらう。

イ 患者の個人デ−タ−を収集する。

ウ 点眼技術チェック表にて滴下動作の可否を看護婦が○×でチェックする。連続3回の○で点眼手技自立とする。

3.結果・考察

(1)年齢と点眼器の選択

 対象者50名は37才〜84才であった。内65才以上が39名と約8割を占めた。点眼器を選択した患者は、全体で29名、しなかった患者は21名であった。患者は必要な治療に望む場合、新たな学習に対し不安を生じるが、点眼器を選択する事で安心して滴下が出来ると言う安心感に影響があったと考えられる。

(2)HDS-Rと点眼器の選択

 点眼器を選択した患者のHDS―Rの平均は25点、しなかった患者の平均は28点であった。対象患者50名中、得点が20点以下は4名でこの平均年齢は76才であった。またこの4名のうち、2名が点眼器を選択していた。得点が点眼器選択の有無と大きく関係していると予測したが、点眼器を選択した患者としなかった患者との間に大きな得点の差はみられなかった。満点の患者でも、点眼器の選択が多い事は、これらの事実が、HDS−Rの得点と点眼器適応の有無に表れたとも考えられる。

(3)BI・FIMと点眼器の選択

 BIにおいて、点眼器を選択した患者の平均は93点、しなかった患者の平均は99点であった。FIMにおいて、点眼器を選択した患者の平均は116点、しなかった患者の平均は124点であった。点眼器を選択した者としなかった者とでは、この2つの得点に大差がないことがわかった。手術を控えた患者は、様々な不安を抱えている。特にそれまでの人生の中で一度も手術を経験したことのない人にとっては脅威である。これらの心理的要素が、点眼手技への不安と結びつき点眼器使用の適応に至ったとも考えられる。

(4)点眼経験と点眼器の選択

 点眼経験者が必ずしも点眼手技に自信を持っているとは言い切れず点眼経験の有無がそのまま点眼器の適応には結びつかないと考えられる。点眼の経験がない患者の多くは、新たな経験をする場合、安全な滴下に対する不安が点眼器を選択したと考えられる。

4.おわりに

 この研究では、点眼器使用の適応を明確にすることができなかったが、@点眼器を使用したことで、点眼の自立ができた。A点眼器を使用することで眼球の損傷もなく、安全かつ安楽に点眼することができた。当5階病棟はこの研究において、点眼器の紹介が定着した。このことにより患者はより安全・安楽な点眼方法の確立ができるようになっている。




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