股義足使用者の歩行動作の運動解析

研究所 福祉機器開発部 青木慶・井上剛伸・数藤康雄
研究所 補装具製作部 山崎伸也

 股離断者の歩行手段として股義足が用いられるが、股義足歩行については運動学的な考察がなされていないため、定量的な設計や改良が難しい。そこで、本研究では実際に股義足を使用している股離断者(27歳の女性1名,右側にカナディアン式股義足)の聞き取り調査および運動計測を行い、股義足歩行の特徴を調べた。
 聞き取り調査から、対象者が普段行っている歩行(日常歩行)と、義肢装具士から勧められる歩行(基本歩行)の2種類の歩行があることがわかった。基本歩行を日常的に行わない理由として、健脚に負担がかかり、さらに歩行速度が遅くなることが挙げられた。また、日常歩行については義足側の踵接地点が自然であると述べた。これらを運動学的に検証するため、対象者に2種類の歩行をさせ、デジタルビデオカメラにより歩行計測を行い、歩行中の下肢関節角度を求めた。歩行速度は、それぞれの歩行で低速・中速・高速の3パターンを指示した。
 計測された日常歩行では、歩幅は歩行速度によらず一致し、左右の歩幅の差はほとんど見られなかった。しかし、義足側の股関節角度振幅は健脚側の股関節角度振幅に比べて小さくなった。一方、基本歩行では、義足側の踵を接地したときの歩幅は健脚の踵接地時の歩幅に比べて大きくなるが、それぞれの歩幅は歩行速度によらず変わらなかった。また、義足側の股関節角度振幅の大きさは健脚側に近づき、義足側の膝関節角度振幅の大きさは中速以上では健脚側とほぼ一致した。ただし、健脚側の立脚時間は義足側の立脚時間に比べて長くなった。日常歩行と基本歩行を比較すると、日常歩行の方が歩行周期が短くなり、歩行速度が速くなった。
 以上より、まず基本歩行は、義足を大きく使い、健脚と義足の運動パターンを類似させることを優先していると言えよう。しかし、この対象者の日常歩行では、聞き取り調査において述べられた義足踵接地点の自然さの達成と健脚の負担軽減のために、左右の歩幅の対称性と健脚の立脚時間の短縮を重視していると考えられる。その結果、義足の接地タイミングが早くなり、歩行周期の短縮と歩行速度の向上が得られたと考えられる。今後は、計算機シミュレーション手法を用いて歩幅などの決定要因を力学的に調べ、股義足の設計へ応用する予定である。




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