学院 視覚障害学科 | 小林 章・鎌田 実 |
網膜色素変性症などの周辺視野障害をもった中途視覚障害者が白杖歩行訓練を受けた場合の効果を示すことを目的として、昨年に引き続き実験を行った。今回は訓練効果を一層明確にするために、コントロール群として未訓練群を被験者としてデータを測定し、昨年の訓練群のデータと比較した。
求心性視野狭窄のシミュレーションゴーグル(3,5,10度)+(視力低下+4.0D)を着用した健常者(矯正視力1.0以上の者)22名を被験者とした(高田巳之助商店製)。被験者は白杖歩行訓練を受けた訓練群 10名(平均年齢24.9±2.02歳・2001年度測定)、受けていない未訓練群12名(平均年齢26.6±3.32歳)であった。
(視野3度・5度・10度)×(白杖有・無) ×(昼間・夜間)の12条件で歩かせ、またコントロールとしてシミュレーションなしで昼間・夜間各1試行歩かせた。
歩行コースは郊外の歩道、歩車道の区別のない住宅街の道路、歩車道の区別のない商店街の道路、商店街の歩道、駅前ロータリー、駅ビルの階段(上り下り)、駅コンコースを含む既知の屋外約900mのコースとした。歩行速度はなるべく普段の歩行速度に近くなるように教示した。また階段では手すりは使わないように教示した。
未訓練群は各視野条件において、白杖を使った方が使わないよりも歩行速度が遅くなった。訓練群では未訓練群と逆の傾向が見られた。t検定の結果、訓練群と未訓練群の各条件を比較すると白杖を使用しない条件では両者の間に差は見られず、白杖を使用する条件ではどの視野条件でも有意差が見られた。すなわち、白杖を使わない場合は訓練をした者もしない者も歩く速さは一緒だが、白杖を使用した場合は、訓練をしない者よりした者の方が有意に速かった。
実験結果は、未訓練群は白杖を使用することで寧ろ歩行速度が遅くなっていることを示している。すなわち,白杖歩行訓練を受けない者にとっては、白杖が歩くのに邪魔な棒にしかなっていないと言える。また、昨年の結果と併せて以下のようなことがまとめられる。
(1) 白杖を効率的に使うには訓練が必要。
(2) 視野が狭くなるほど歩行能率は低下する。
(3) 歩行能率の低下は白杖使用により補うことができる。
(4) 視野3度以内の人には白杖歩行訓練が効果的である。
(5) 夜間の外出が想定される場合、10度以内でも訓練が有効(下り階段)。