失語症の長期的改善に関わる要因について
 〜感覚性失語1例の経過から〜

病院 第二機能回復訓練部 餅田亜希子・三刀屋由華・結城幸枝

1.目的

 失語症者141名の長期経過の調査を行なった佐野(1990)は、「失語症の言語症状は若年層ほど長期にわたり改善する可能性があるため安易にプラトーと判断することは危険であり、適正な言語訓練を長期にわたって継続することが重要である」と述べている。また、失語症者への援助については、@失語症者の発症年齢、脳損傷の状態から予後を適正に予測し、Aおかれている社会的状況に応じた個別プログラムを立案し、B援助の実行には、医療の枠を越えた幅広い社会の支持が必要である、と指摘している。本発表では、発症直後に重度の失語症が認められ、その後2年以上にわたって言語機能の改善が継続している失語症患者1例の訓練経過を紹介し、その機能回復に関わる要因について考察を行なう。

2.症例

 発症時52歳、女性、右利き。平成12年9月27日、左半球中大脳動脈灌流域の脳梗塞にて発症。同年11月21日、当院に入院。神経学的所見:右片麻痺。神経心理学的所見:病前と比較した軽度の精神機能低下(レーヴン色彩マトリシス検査25/36点)、口腔顔面失行、観念・観念運動失行、構成障害、および重度の感覚性失語を認めた。初回評価時言語所見:発話は意味性または新造語ジャーゴンが大半で重度に障害されており、書字も自分の名前が書けるのみで重度の障害であった。聴覚的理解に比べ視覚的理解が若干保たれていたが、いずれも単語レベルから不確実であった。心理面:不安が非常に強く易疲労的で、訓練に行くことを泣いて拒否することもあった。

3.言語訓練経過

 平成12年11月30日より入院での言語訓練(個人×3回、集団×1回/週)を開始した。平成13年5月11日より外来にて週1回の個人訓練を開始し、現在まで継続している。

4.現在の言語所見

 言語機能および全般的なコミュニケーション能力に著明な改善が認められ、失語症は重度から中等度となった。身近な内容であれば、簡単な日常会話の聴覚的理解は可能となり、喚語困難によって発話での情報伝達には制限があるが、単語、句および2〜3文節文の発話によって意思の伝達が可能なことも増加してきている。コミュニケーション意欲が非常に高く、ジェスチャー、描画、書字などを駆使して意思を伝達しようと努力する。

5.考察

 発症から2年の経過を振り返ると、本症例の言語機能およびコミュニケーション能力が著明に改善したことに関わる要因として、@言語障害のメカニズムを考慮した言語訓練、Aコミュニケーションパートナーとしての家族の役割、B地域・社会資源の活用などが関わっていると考えられた。




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