見当識障害を有する患者へのアプローチ ―自分史年表作成を通して―

病院 看護部 4階病棟 四ノ宮美恵子・秋元由美子・土屋和子・小沢哲史・尾崎聡子・乗越奈保子・原田由布子

 見当識障害を有する患者は、自己の存在を時間的に順序づけて捉えたり、空間的に自分のいる場所を捉えることができず、現状に対する適切な認識を持ちにくい。さらに、その見当識障害に伴う作話は、患者と家族が日常生活を送っていく上でも大きな支障となる場合が多くみられる。
 当院ではこうした見当識障害への対応のひとつとして、日常生活の行動記録表の記入指導を行ってきた。しかし、それによって病院内の日課に関しては管理が可能になったものの長期的な個人史に関する見当識は補いきれない、という課題が残っていた。そこで、日常生活だけではなく長期的な個人史にまつわる見当識障害にも対応できるアプローチとして自分史の年表を作成していくことが役立つのではないかと考え、家族同席で実施するにいたった。その結果として、当初の目的以外にもいくつかの効果が見られている。現在はそれらも目的に含め、さらに対象者を拡げて「自分史年表」の作成を通したアプローチを行っている。ここでは、その原点となったアプローチを紹介する。

1.「自分史年表」作成の目的

1)見当識障害への対応  2)現状理解の促進

2.内容

1)実施頻度:週1回60分  2)参加者:本人、家族、心理職員
3)方法:家族とともに患者の個人史を振り返りながら、「自分史年表記録用紙」に誕生から現在までのエピソード(誕生日、入学、就職、結婚など)を記入していく。その際に、心理職員や家族からの働きかけだけでなく、手がかり(家族写真、思い出の品、昭和史年表など)を自分史年表と対応させて呈示し、患者の想起の手助けとした。

3.まとめ

 以上のアプローチの事例検討から次のような効果が得られることがわかった。1)個人史に関わる時系列的な混乱軽減の一助 2)自己の連続性の回復による不安軽減 3)個人史の延長上に現在の自己を定位することによる現状認識の促進 4)自尊感情の回復 5)家族との相互理解 6)家族の役割認識向上
 現在は、このアプローチを通して得られた知見を含めて、見当識障害を有する患者のみでなく、逆向性健忘を有する患者などにも対象を拡げて実施し、効果をあげている。また、指導終了時には、必要な時に家庭で見られるように完成した年表に表紙をつけて渡している。




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