歩行中における外反母指角の定量化と足底装具の効果に関する研究

学院 義肢装具学科 星野元訓・高嶋孝倫・大石暁一

【はじめに】

 歩行中における第一中足趾節間関節での内・外転の角度変化についての報告は見当たらない。また、母指の水平面内における病的変形である外反母指について、静止立位時のX線撮影によって多くの診断・評価がされているが、歩行中の運動についての明確な報告はない。そこで、歩行中における母指MP関節での内・外転の角度である外反母指角と外反母指診断指標の一つであるM1−M5角の変化を定量化した。手法として三次元動作解析の応用を試みた。また、将来的に外反母指装具の効果を検証することを目標とする。

【計測と解析方法】

 歩行時の計測は各被験者の自由歩行を三次元動作計測システム(Vicon512)によって行った。被験者は外反母指傾向を有する4名と健常者1名のボランティアとした。
 直径20mmの反射マーカを、A:母指先端、B :第1中足骨頭、C:舟状骨、D:踵骨内側骨突起部、E:第5中足骨頭、F:第5中足骨基部の6点に貼り付け、各点の空間座標を計測する。
 歩行中の進行方向に対して、足部長軸のなす角度は個人差があり、球関節である母指MP関節は三次元的に運動するので、足部内で起こる母指の角度変化を捉えるには進行方向に対して足部長軸のなす角度を統一化する必要がある。そこで、三次元動作計測システムから得られるグローバル座標系における各マーカの座標データを足部座標系に変換する処理を施す。足部座標系への変換後、外反母指角、M1−M5角について角度算出を行う。

【結果および考察】

 外反母指角は母指が接地すると静止座位に近い角度を保つが、踏み返し時期に外反母指傾向群では角度が増大する特徴が見受けられた。母指が床面に接地しない立脚初期では各被験者間で共通の傾向は見られなかった。
M1−M5角については、HCから前足部への荷重につれて増大し、HO後に最大値を取り、その後減少に転じた。外反母指傾向群の2例にピーク値増大が大きく、足部変形量が大きい傾向が見られた。
 外反母指傾向群においてアーチサポート装着と裸足を比較すると、外反母指角については3名に、M1−M5角では4名に角度を減少させる効果が見られた。
 これらのことより、本手法は、外反母指装具の評価指標として、また新たな装具の提案に応用可能なのではと考えている。




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