学院・視覚障害学科 | 小林章 |
ルーペはロービジョン者が活用可能な比較的安価な拡大補助具である。特に焦点を 固定してくれるスタンドルーペは上肢、手指機能に問題を抱える人にとっては有用である。 しかしスタンドルーペのレンズは焦点距離の長さで固定されていないため、有限の距離に 拡大された虚像を作っている。この場合ルーペを使う際の姿勢に自由度を持たせると、 虚像までの視距離が変化し、実質何倍で見えているのかが不明確になってしまう。 また、虚像が近くにできる構造の場合、調節力の落ちた高齢者は虚像にうまく焦点を 合わせることができない。本研究は現在市販されているスタンドルーペの虚像の位置の 測定を試み、製品毎の目の位置による倍率換算表の試作を目的として行った。
2.1 原理
実験者の遠点をプラスレンズで制御し、虚像の位置と遠点が一致する点を探した。
2.2 使用器具
近点測定器(石原・大塚式)、検眼用テストレンズ、検眼用テストフレーム、評価用視票
(adobe lllustratorで自作)を使用した。
2.3 手順
(1) 瞳孔の縮散による焦点深度の変化、および調節によるデータの変動を防ぐために
検査用散瞳点眼剤ミドリンP(眼科医により処方)を使用した。
(2) 近点測定器で遠点を測定した。
(3) 遠点が15cm程度になるプラスレンズを評価開始のレンズとして選択し、視票に
焦点が合うまでプラスレンズの度数を徐々に減らした(マイナス度数を増やした)。
遠点を15cmに設定したのは、スタンドルーペの虚像までの距離が15cm以上あることを
想定したからである。
(4) 最初に焦点(遠点)が合ったレンズ度数から、虚像までの距離を計算した。例えば、
実験者の遠点は20cmで、ディオプター換算をすると+5dpt.(100/20)である。-2.00dpt.の
レンズを入れた時に視票に焦点が合ったとすると、(+5) + (-2) = +3という計算ができ、
3dpt.の焦点距離33cmが虚像までの距離ということになる。
(5) 計算により虚像の倍率を求め、スタンドルーペから目を何cm離すと何倍の倍率が
得られるかを視角により換算した。
スタンドルーペのレンズ面から目を何cm離すと何倍の倍率が得られるか、一目で確認が 可能な製品毎の倍率換算表を作成した。