高次脳機能障害者の社会的行動障害による社会参加困難への対応に関する研究

主任研究者 中島八十一

研究の目的

 本研究は、1)社会的行動障害による社会参加困難と2)児童・生徒の就学に関する課題に対応するための基礎資料を提供することにより、高次脳機能障害者・児支援施策を充実させることを目的とする。さらに、3)NDB(レセプト情報・特定健診等情報ナショナルデータベース)を用いて、全国の高次脳機能障害児・者の症例数推定値及び障害福祉分野での支援サービス対象者数の推定値を算出するための手法を検討する。

研究でわかったこと

 社会的行動障害による社会参加困難事例について調査した結果、その転帰は在宅、障害者支援施設、精神科医療機関、矯正施設と様々であった。中には、触法に至るまで障害が看過され医療福祉が全く関与していなかったケースや、リハビリを希望しても受け入れ先がなかったケースなどが含まれることから、高次脳機能障害の早期発見・治療(特に薬物治療)・リハビリテーションの重要性を、関係機関に対して周知する必要が示唆された。また、社会的行動障害への対応は児童の支援においても重要度が高いと考えられた。
 NDB(レセプト情報・特定健診等情報ナショナルデータベース)を用いて患者数を推計する場合、疾患特異的な治療法(医療行為や処方)や疾患特異的な検査」を用いると、比較的高い精度の推計となるが、高次脳機能障害には疾患特異的な治療・検査がないため、患者数の推計方法は、病名を基準とし、「F04、F06、F07のいずれかの病名コードを有し、除外基準に該当しない」場合を高次脳機能障害と定義する方法に拠ることとした。また、高次脳機能障害を生じやすい患者(脳腫瘍術後や頭部外傷等)を対象に、事象発生後、数ヶ月間以内に高次脳機能障害の診断を受ける率を算出し、全国での分布を見ることで、医療機関に注意喚起を促す際の基礎資料として活用できると考えられた。

結論

 社会的行動障害を有する高次脳機能障害者の支援について、その実情を把握した。調査結果に基づいて作成した社会的行動障害支援対応マニュアル(社会的行動障害の基礎知識、症状と基本的な対応、サービスや制度の活用例など)の今後の施策・事業での活用を見込んでいる。