診断名への誤解

×  軽度発達障害は、軽い障害である
×  知的障害を伴う自閉症は、発達障害にはふくまれない
× 広汎性発達障害、学習障害(LD)、注意欠陥多動性障害(AD/HD)だけが発達障害だ

 以前は、知的な遅れを伴わない高機能自閉症、アスペルガー症候群(Asperger syndrome)、学習障害(LD:Learning Disorders,Learning Disabilities)、注意欠陥多動性障害(AD/HD:Attention-Deficit/Hyperactivity Disorder)などを「知的障害が軽度である」という意味で「軽度発達障害」と称することがありました。しかし、知的な遅れがない人の中にも、その他の部分で重篤な困難さをもっている場合があります。そのことから、「障害そのものが軽度」と誤解される可能性を危惧して、最近では「軽度発達障害」ということばは、あまり使われなくなってきています(平成19年3月に文部科学省から「軽度発達障害」という表現を、原則として使用しない旨の通達が出されました)。

 発達障害は、知的な遅れを伴う場合から知的な遅れのない人まで広い範囲をふくんでいます。知的障害を伴っていても、自閉症としての理解に基づいた支援が必要である場合も多いことに留意すべきです。また、発達障害者支援法は、「その他の障害」について詳しく障害名をあげていませんが、「トゥレット症候群」といった障害も対象にふくまれています。

障害の予後についての誤解

×  発達障害は能力が欠如しているから、ずっと発達しない
×  発達障害は配慮しないままでもそのうち何とかなる

 発達障害は発達のしかたに生まれつき凸凹がある障害です。人間は、時代背景、その国の文化、社会状況、家庭環境、教育など、多様な外的要因に影響を受けながら、一生かけて発達していく生物であり、発達障害をもつ人も同様です。つまり、年齢とともに成長していく部分もあり、必ずしも不変的な障害とはいい切れないのです。もちろん個人差はありますが、「障害だから治らない」という先入観は、成長の可能性を狭めてしまいます。周囲が彼らの凸凹のある発達のしかたを理解しサポートすることにより、「障害をもちつつ適応していく」という視点をもつことは重要です。

 一方で、発達障害はひとつの個性だから配慮は必要がないと考えるのも行き過ぎです。成人になった発達障害者から、小さいころから配慮が受けられず困難な環境の中で苦労して成長した話も耳にします。

rehab2021_ill09.gif

 

 

 

 

 

 

 

支援方法についての誤解

×  すべて本人の好き勝手にさせておく
×  有名な訓練方法を取り入れれば、それだけで治る

 発達障害では、実は「きちんと教えてもらうこと」「きちんと止めてもらうこと」が必要な場合が多くあります。もちろん、一律的なやり方ではだめで、その人に合ったやり方を工夫しなければなりません。その反対に、よかれと思って一方的に有名な訓練方法を押しつけられても、本人が何に困っているのかきちんと把握しないままでは、本人にとってつらいばかりかもしれません。

 支援者の中には自分が今までにつちかってきた手法が、どの発達障害者の支援にもよいはずだという思いこみをもってしまう人がいます。しかし、目の前にいる発達障害者にとって、その手法のどの部分が適切でどの部分が不適切なのか、支援者はあらためて点検する必要があります。

町の中でみられる行動への誤解

× パニックをおこす子どもは外出させてはいけない
× 発達障害の子がパニックを起こしたら、大勢でおさえつける

 発達障害の子も、家の中に閉じこもっているだけではなく、町の中に出て行くことでさまざまな行動のしかたやルールを学んでいきます。その際に、発達障害の子どもが騒いだりパニックを起こしたりしていると、「なぜ親は厳しく叱らないんだ」と周囲はイライラしてしまうかもしれません。しかし、発達障害の子は、少しの時間待ってあげる方が、叱って無理におさえつけるよりも早く混乱から抜け出せることが多いのです。たくさんの人が一斉に近づくことは逆に興奮させてしまうこともあります。

 道路で寝ころんでしまったときなどは、移動させるのを手伝ってもらうと家族は助かることもあります。周囲の人が「あれは発達障害の子のパニックだ。そのうち落ち着くだろう」と知識をもって見守っていてくれるだけでも、本人も家族もずいぶん楽になるのです。