〔随想〕
組織について考える
病院長 関 寛之

 医療は様々な専門職が組織的に連携してサービスを提 供することによって成立する。リハビリテーションにお いては更に多くの職種の人達が連携しなければならない 。近年、医療事故の報道が急増しているが、医療をとり まく環境が多様化、複雑化したのに旧来のままのネット ワークシステム=組織が状況に対応できなくなったのが 大きな原因であろう。その上、医療サービスの向上とい う要請に応えるためには新たな視点で組織の機能性や構 成メンバー間の信頼と結束力を再構築していかなければ ならない。
 経営学者の金子郁容氏は「ネットワーキングヘの招待 」という著書(中公新書)でネットワークには二つの対 照的なタイプがあると述べている。一つは統制型ネット ワークで典型的なものは軍隊であるが、企業や病院の組 織もこのタイプに入る。統制型ネットワークでは組織全 体の目的を設定し、役割分担を決めて目的を達成するた めに規則を作る。このタイプの組織は規則に決められた 範囲内の事柄は迅速に処理でき、組織の維持も安定して いる。弱点は範囲外の事や流動的な状況には対応できな いことである。
 もう一つのタイプは参加型ネットワークでボランティ ア組織が典型である。NPO、NGO、社内プロジェク トチームなどもこのタイプである。この組織はメンパー がそれぞれ固有の目的をもち、上下関係がないので合意 に達するには全員の納得が必要なので努力と時間を要す る。また、メンバーを縛る規定はないので組織内に軋轢 が生じたとき、解決する努力が不十分だとメンバーが脱 落して組織は崩壊する。しかし軋轢を乗り越えるたびに 組織は強固なものに発展するという強みもある。メンバ ー間の信頼感が生まれれば、予定外の事態に遭遇しても いちいち全体に諮らずに即妙に処理することもできる。 こういう状況では所定の規則に従って階層的な決定プロ セスをとらなければならない統制型組織よりも力を発揮 する。この二つのタイプのネットワークは対立するもの ではなく、その特色をうまくかみ合わせることで組織の 活性度や質を高めることができる。
 もっと卑近な例えをすると統制型ネットワークは結婚 で、参加型ネットワークは恋人同士の関係である。結婚 という法律に守られた人間関係は強固ではあるが、それ に寄りかかっていては創造的な活動やベンチャーは生ま れない。他方、恋人同士はより親密な、より強固な関係 を築こうと情熱を燃やすが、その関係を維持するにはそ のための努力を続けないと二人の関係は崩壊する。熱烈 な恋愛結婚が不幸な束縛と化し、人生の墓場となる。私 は家庭もリハセンターも我が人生の墓場にしない。