〔総長新年挨拶〕
新年のご挨拶 ……可能性を信じて……
総 長 中村 隆一



総長 中村隆一
 謹んで迎春のご挨拶を申し上げます。
 昨年は21世紀の始まりでしたが、地球規模で暗い事 件や話題が多かったようです。わが国も例外ではありま せん。多くの人々が閉塞状況にあることを感じ、明日に 向かって希望と確信をもって進むことをためらっている かのようです。
 グレゴワールは、「世界の見方は、事実上、次の三つ しかない。すなわち、<混乱した>ものと<秩序立った >ものと、人間的な行為によって<秩序立てられ>つつ あるものとである」と記しています。またスタンダール は「われわれは事物を、われわれの頭が描くように見る 。したがって、この頭を知らなければならない」と主張 します。さて、私たちの頭は、どのような世界観を描い ているのでしょう。唯物論の立場から、精神は物質によ って規定されるとすれば、結論を得るには脳科学の進歩 を待つしかありません。しかし、そこから「今、ここ」 における人々のあり方を示唆するような思想は生まれて いません。このままでは、天地創造以前の世界の状態、 カオスを思い描くことになりかねません。
 他方、ものごとの本当の原因あるいは理由は、始まり にあるのではなく、終極にあるとする見方もあります。 現在の社会状況は、理由を過去にもとめて模索を続けて いるように思えます。むしろ、未来に向かって生き方を 問いかけることが大切であると信じます。
 過去は変えることができません。すべては事実として 残っています。未来には、自由と可能性があります。可 能性あるいは潜在力(ポテンシャル)を解放して、人類 に役立つようにするためには、私たちの努力で<秩序立 てられ>つつあるのが世界であると誓うことです。この 誓いは私たちの自由な意思に基づくのです。そこから、 いろいろな可能性が現実のことへと変化するためのエネ ルギーが生まれます。
 リハビリテーションの世界は、つねにゴールに向かう 人々の努力によって支えられています。これは私たちの 日常業務、そのものです。身体障害者が自己の潜在能力 を最大限に解放することを支援できるようになるために は、私たちが自分達のポテンシャルを十分に解放できる よう、そのためのスキルを身につけておかなければなり ません。
 国立身体障害者リハビリテーションセンターは、大き な組織であり、大勢の人々によって構成されています。 組織には達成すべき目的があり、それに近づくための個 々の目標が立てられています。システムとしてみれば、 職員一人一人は欠くことのできない構成要素です。複数 の構成要素が集まって、ひとつの目標を達成します。こ の場合、目標を「機能」、構成要素の集合と相互の関係 を「構造」と呼びましょう。すると、システムは複雑な 構造・機能連関で成り立っていることが分かります。
 私たちは、身体障害者一人一人の可能性を実現するた め、新たな構造・機能連関を求めつつ、大地にしっかり と踏みしめて行きましょう。そうすることが、私たちの 可能性を具体的な形で実現へと導いてくれる道であると 信じています。

平成14年元旦