快走!熱走!激走!そして完走!
〜第41回秩父駅伝競走大会奮戦記〜
理療教育部 伊藤和之


スタート風景

◆襷(たすき)をつなぐということ
「その重さは、走った者にしかわからない」
2001年12月、後藤さんの厚い唇から、「よし。出 るぞ」ということばが発せられた。私の脳裏には、3年 前、奥武蔵駅伝に出場した時の重圧と興奮、そして、今 は函館に住む罍さんの激しい息遣いが甦った。
駅伝の襷の重さは、走る距離にも年齢にも関係はない。 箱根の学生も、「59歳なのでよろしく」と挨拶され た6区アンカー牛山副院長も一緒である。極限まで自分を 追い込み、次の走者に思いをつなぐ。その機微は全く同 じなのだ。
これは、秩父の山に繰り広げられた、国リハ2チーム12人 の男たちと、サポーター8人の壮絶なドラマである。
◆波乱含みの早朝
 2月10日5:15。気温0度。暗闇の車庫前に集ま ったのは19名。副院長は現地合流だ。一同は、3台の 車に分乗。ほぼ順調に秩父駅前に到着した。しかし、な んとそこには既に本田部長の姿が。実は、部長は今回の 出場のよき理解者であり後援者だったのだ。驚きを隠せ ないサポーター鬼塚さんに、部長は、「ちょっと様子を 見たくてね。はははは」
 だが。部長は、選手に一声掛けると、忽然と姿を消し た…
◆難コース
 7:30。秩父の山並みは銀色に染まっている。息が 白い。しかし、スタート地点では、中・高校生に混じっ て短パンでウォーミングアップを始めている、ひたむき な男がいた。どよめきが起こった。Bチーム1区、若林 さんだった。
同じ1区を走るAチーム後藤さんが受付を済ませる。移 送係の小松原さんたちが、それぞれの中継所に2区以降 の選手・サポーターを配置していく。
起伏に富んだコース設定。全長34.8km。皆野町、 吉田町、両神村を抜け、小鹿野町役場前まで続く。降雪 中止もあるという真冬の気象条件とも闘わねばならない 。「こりゃ凄いねえ!」移送車の中で、選手はもちろん サポーターも、緊張の時を過ごす。
◆運命の9:30
 スタートの号砲。後藤さん!若林さん!…サポーター 河野さんの目に映ったのは、カメラマン朝野さんによる 余裕の記念撮影であった。それから秩父公園橋まで長い 下り坂を一気に走る。冷たい空気が容赦なく気管を攻め たてる。1km3分台で走る王者埼玉県警を、40代の ふたりは「気持ち」で追いかけた。
2区。葛折とだらだら坂。加藤さん(A)、32秒遅れ で学院生の梶原さん(B)が襷を受ける。若いふたりが 初めて挑むレース。ペースを掴むのが難しい。中継所手 前の坂を登る彼らの顔は、苦渋に歪んでいた。先に入っ てきたのは梶原さん。加藤さんは息も絶え絶えに倒れ込 んだ。仰向けの彼は、サポーター小林さんが差し出した タオルを手にうめいた。「ううっ。きついっス!」
3区。国リハチーム同士の一騎打ち。ナンバーコールの 前からジャージを脱ぎ捨てていた吉川さん(B)がスパ ッツ姿で颯爽と走り出せば、佐藤さん(A)は伊東の駅 伝を思わせる激しい追い上げ。両雄の後を移送車が追う 。佐藤さんは片手を挙げて応える。50m先の吉川さん は。…前を行く女子中学生を抜かんと、後姿を凝視して いた。彼のささみのようなふくらはぎが軽快なピッチを 刻む。だが…
◆無念の繰上げスタート
目指す中継所には、4区遠藤さん(A)と学院生谷さん (B)の姿は無かった。厳しい現実。しかし、待ち受け る選手・サポーターの表情は一様に温かく、駆け込むふ たりを迎えた。吉川さんに抜かれた中学生がしゃがみ込 み、泣いていた。駅伝の難しさと美しさを感じさせるシ ーンだ。
4区。一斉スタートの緊張と激しいアップダウンの連続 が、遠藤さんと谷さんに襲いかかる。遠藤さんは、日夜 後藤さんの激励のもとで練習に励み、谷さんは急遽決ま った出番だが、意気に感じて備えてきた。ふたりに普段 の柔和な表情はなく、黙々と距離を刻んでいく。密やか な闘志が伝わってくる。
5区。Aチームは武藤さん。Bチームは学院生井口さん 。防寒着を預かる森さんの檄が飛ぶ。スーッと走り出す 。爽やかだ。
今回のチームは、様々な部署の人集めて編成したところ に特徴がある。職員間の絆を深めたいという参加主旨の 表れか。さらに、後藤さん曰く、Aチームは「フジ」の 字を持つ人が集まった。私がいればチーム名は「クラブ 藤」だったはず。…ふと気づくと、コース最長の8.5km を任されたふたりは、1km4分の好タイムで駆け 抜けていた。
◆結実の瞬間

中継ポイント

6区。アンカーは牛山副院長(A)と山本さん(B)。 森さんの愛妻、愛子さんの熱いまなざしを背に、4.4km を下り降りる。さすが副院長。トライアスロンなら ではの華やかなランニングパンツが軽快だ。快走。声援 を受けながら、雄々しくテープを切る。続いて山本さん 。1歳を迎えた愛娘を祝う、満足の 完走。Aチーム2:41:57、Bチーム2:43:55の熱闘はこうし て幕を閉じた。
ゴール地点。朝野さんのカメラに収まった19名の胸に は、充足感と、早く秩父の湯煙に身を委ねたいという気 持ちが湧き上がっていた。
◆さらなる挑戦
 大会後の懇親会では、本田部長が再び姿を現した。柔 和なスマイルで勇士たちの労をねぎらっていた。また、 来期は遠藤さん、加藤さんの両名がチームリーダーに就 任することとなり、優勝を争うことを誓い合っていたそ うな。
 連休明けには、関院長からチームの健闘を讃えること ばが後藤さんにあったとのこと。選手だけでなく、サポ ーターの存在や応援の声があってこその大会参加である 。ともすると、ひとりひとりの存在感が希薄になりがち な大所帯でも、ひとりひとりがひとつの目標に向かうた めの尊い力であることを確認できた1日だった。

みんなで

《参加メンバー》
  1区 2区 3区 4区 5区 6区
Aチーム 後藤幸雄 加藤 麦 佐藤広幸 遠藤明宏 武藤 正 牛山武久
Bチーム 若林耕司 梶原清隆 吉川 晃 谷 暎志 井口健司 山本裕理
中継所等
サポーター
河野 葉子 小林 美貴恵 鬼塚 剛博 小松原 正道
森 愛子 朝野 收一 伊藤 和之 森 公士朗