〔海外レポート〕 |
海外視察報告〜英米介助犬を訪ねて〜 |
病院 理学療法士 濱 祐美 |
<はじめに>
今回、2004年3月16日より3月28日まで英国・米国両国の5つの介助犬育成団体と介助犬
ユーザーのご自宅を訪問・インタビューを行う機会を得ました。今回の視察の目的は、両国
の介助犬育成の現状、また介助犬使用者の現状を聴取することです。ここでは、今回の視察
の概要を中心にご報告します。
<英国2団体を訪問>
3月16日に英国入りし、3月17日にDog for Disabled、3月18〜19日にかけてCanine Partners
という団体を訪問しました。
まず、最初に訪れたDog for Disabledは、ロンドンより北に電車で1時間ほどのところに
あるバンベリーという郊外にあります。代表者はPeter Gorbing氏、インタビューや団体施設
内部の見学対応はDuncan氏でした。この団体の施設は大きくはありませんが、英国有数の
介助犬育成団体であり、多くの助成金を受けて介助犬育成を行っています。助成金の1つには、
National Lottery(宝くじ)の収益から助成を受けています。年間介助犬育成数は30〜40頭
ほどで、年毎に卒業頭数も増加してきているとのことでした。インタビュー後に訓練風景や
施設内部を見学し、そのときは20頭ほどの訓練を入れ替わりに行っていました。
次に、3月18日〜19日にかけて、ロンドンより電車で2時間ほどのところにあるプールの
Canine Partnersを訪れました。この団体代表はNina Bondarenko氏で、ちょうど最終的な
合同訓練(2週間)を見学することができました。19日には、団体近くのペットショップに
出かけ、実際に介助犬とともに買い物を行い、支払いまで済ませるという訓練も行われて
いました。団体にはOTも所属していて医療との連携を取っているということでした。
<米国3団体を訪問>
3月22日にAssistance Dog Institute(ADI)、23日にCanine Companions for Independence
(CCI)、Loving Pawsを訪問しました。
22日に訪れたADIはBonnie Bargin氏が責任者となり、短大の単位取得もできる学生のコースを
持っています。そのため、訓練は所属トレーナーと学生によって行われています。また、
シエラ・ユースセンター(非行少年の更生施設)で少年たちにトレーナーをしてもらうという
介助犬育成プログラムを行っています。施設内を見学したあとに、犬の実習訓練として、日本
でいう特別養護老人ホームを訪問しアニマルセラピーを行っていました。やはり、普段じっと
していることが多い高齢者の方も犬をブラッシングしたり、ともにボール遊びをしたりする
ことで表情も豊かになっていくように感じられました。
23日に訪問したCCIは非常に大きい団体で、介助犬だけでなく聴導犬やコンパニオン犬(犬の
管理が困難な障害児に対して、保護者の管理責任のもと社会へのアクセスが可能となる犬)、
ファシリティー犬(医療や教育関係者がその施設内において治療の補助に活用する犬)の提供
を行っています。私はそれぞれメディカル部門、ブリーディング部門、トレーニング部門の
責任者の方へのインタビュー、そして介助犬・聴導犬の訓練風景を見学することができました。
次に前施設からすぐそばにあるLoving Pawsを訪れ、代表であるLinda Jennings氏とお会い
しました。この団体は障害児童に対しての介助犬提供を行っている団体です。18歳以下の障害
児童に介助犬を提供する場合、いろいろな意見もあるようですが、基本的にアメリカでは保護者
の責任のもと提供されていると考えていいようです。訓練はトレーナーたちが街に出て行って
いるということで実際には見学することはできませんでしたが、Jennings氏と様々な意見交換を
行うことができました。
<Susan Duncan氏との面会>
最後に3月26日シアトルへ移動して、Susan Duncan氏とお会いしました。彼女は、多発性硬化症
により身体に(特に左側)障害をもっており、また看護師でもあり、そして介助犬を自身で
トレーニングして育成してきたという経緯をもつ方です。彼女と面会して、実際の介助犬
ユーザーとしての意見、現状をお聞きすることができました。
<まとめ>
今回、長期(13日間)にわたって英国・米国の介助犬団体、介助犬ユーザーを訪問・視察し、
多くの知見を得ることができました。どの団体も介助犬を希望する障害者でさえ介助犬を
働く犬としてではなく、賢いペットとして捉えている方も多いという意見が聞かれました。
やはり、介助犬は障害者の補助をするための仕事をしているということを改めて私たちが
理解し、周知する必要があると感じました。そして、介助犬のスキルや性格と障害者の
ニーズをうまくマッチさせて提供することが、非常に重要であるとともに難しい問題でも
あると思いました。私たちのような医療関係者は、障害者の生活や社会での自立を目標と
してもともと仕事をしているので、「なぜすべて自立している障害者が介助犬をほしいと
言っているのか」と感じる方も多いと思います。実際、私もそうでした。しかし、介助犬
をほしいと思っているのは障害者自身の選択であり、それに犬の管理責任や世話が生じる
ことをきちんと理解していれば、その選択を尊重する必要があると思います。そういった
ことをいろいろ含めて考えると、まだ日本では介助犬に対しての理解・周知はされていない
ことを痛感しました。
今回、訪問・視察した団体は、それぞれ訓練方法も医療との連携の取り方も違っていましたが、
すべての団体が障害者のより良い生活ということを念頭におき、そのために何が必要かという
ことを日々模索しているように感じました。一人での海外視察で英語も堪能ではない私がなん
とか日本での現状を話すと、それに対して様々な意見をいただくことができました。介助犬に
関してまだ初心者である私に協力してくださった海外の皆様に感謝申し上げます。今回のような
視察・意見交換がより有効に活用され、今後さらに良質の介助犬が提供されること、そして
より良い障害者のQOLが実現されることを願い、今回の視察報告を終わります。