〔総長新年挨拶〕
新年のご挨拶
−新たなる時代への再出発に当たって−
総長  佐藤 コ太郎


総長 佐藤 コ太郎

 皆さん、新年おめでとうございます。  この新しい年が、皆様方及び国立身体障害者リハビリテーションセンターにとって良い年で ありますように願っております。
 本年は、当センターが創立25周年を経て30周年に向けて新たな歩みを開始する年となりますが、 21世紀に我が国が目指すべき共生社会の実現に向けて、当センターにおける保健・医療・福祉 サービス及びこの分野での研究・養成・研修会活動の重要性は益々増大しております。
 当センターにおけるこれまでの活動を数字で表しますと、更生訓練所においては6,000名を 越える入所者の社会参加に貢献しております。病院にあっては、延べ120万人を越える方々に 医学的リハビリテーションサービスを提供して参りました。昨年12月に行われた学院の担当 による義肢装具等適合判定医師研修会においては、5,000人目の受講者が障害保健福祉部長からの 特別記念品を授与されております。
 また、研究所においては障害分野の重要な国際的研究機関として活躍しておりますが、 当センター創設からの10年間に発表された田中一郎先生の86編に及ぶ論文の中に、 神経再生研究につながる「細胞内染色法」の開発があります(国リハ研紀9号)。 それから16年を経て、昨年より脊髄再生の研究が開始されました。
 さらに、各部署の連携による活動として、高次脳機能障害モデル事業が進められており、 障害のある人々への医療から社会復帰までの一貫した支援をさらに充実させるための 取り組みも始まっております。
 昨年は、WHOの研究協力機関としての登録を更新し、韓国国立リハビリテーションセンター と姉妹関係を結び、チリや中国等における国際協力事業を始めとするナショナルセンター としての重要な国際協力活動も着実に展開されております。
 ここで、創立から約20年間の更生訓練所における活動の一部に触れておきます。 脳原性運動機能障害、精神障害及び外傷性脳損傷の職業訓練を行った帰結を表に示しました。 脳原性運動機能障害で知能指数が70未満の人々の60%が、60未満でも約54%が一般企業に 就職(一般就労)しております。すべての人々が療育手帳を持っていたわけではありませんが、 この結果から、身体障害に知的障害を合併している場合にも同様の訓練効果を期待できるもの と考えられます。
 精神障害がある場合の就労に関しては、川崎市社会復帰ニード調査により、在宅者の正社員と アルバイトとの就労者は約29%であり、障害者総合センターの報告書にある4事例においては、 週の労働時間は8〜24時間で、グループワークにおいてより長時間の労働が可能であったと 報告されております。これらの報告から、精神障害のある人々において、就労率は高くなく、 短時間就労の必要なケースがあることが窺われます。表にまとめた更生訓練所における精神障害は、 統合失調症、うつ及び躁うつの人々についてのものですが、毎日の訓練を積み重ねて、 半数近い人々が一般就労に漕ぎ着けております。
 外傷性脳損傷の就労率は、国内で14.6%〜37.4%、外国でも29〜66%と報告されております。 当センターにおいては、54%が一般就労しており、認知障害のある人々においても高い訓練効果が 得られております。
 更生訓練所入所者に関する以上のような実績は、当然のことながら、当センターだけのもの ではなく、国立職業リハビリテーションセンターとの一体的活動の結果です。
 さて、今後の障害保健福祉施策改革のグランドデザイン案が示されましたが、障害保健福祉の 総合化、自立支援型システムへの移行及び制度の持続可能性の確保をその基本的視点としております。 これらすべての視点において当センターの活動の見直しが必要です。幸いにも、当センターでは これまでに多くの実績が積み重ねられております。その実績を基盤に、グランドデザインの趣旨を 踏まえた内容となるよう、遅れることなく、十分な検討を行い、センターのさらなる発展を 目指したいと考えております。
 年頭に当たり、皆様方のご協力を心からお願いする次第です。



表  脳原性運動機能障害、精神障害及び外傷性脳損傷における職業訓練の帰結
障害 人数 入所時平均年齢
(歳)
平均入所期間
(月)
訓練帰結
一般就労 福祉就労 自営 その他
脳原性運動機能障害
 (TIQ<70)
80 20 18 60.0% 15.0% 5.0% 20.0%
精神障害 25 26 15 44.0% 8.0% 0% 48.0%
外傷性脳損傷 128 23 18 54.0% 7.3% 0% 35.5%