〔国際協力情報〕
平成16年度JICA補装具製作技術コース研修を終えて
研究所補装具製作部  山崎 伸也


 平成16年8月23日から12月10日までの日程で、JICA補装具製作技術コースの研修会が行われました。 この研修は、発展途上国の装具製作技術の向上を目的として実施されています。 今回は、アフガニスタンのアシュラフさん、パプアニューギニアのトリさん、ペルーのレイリさん、 セネガルのアルイズさんの4名で、別プロジェクトで中国から来た王さんが加わり計5名の研修生でした。
 はじめの2週間は義肢装具全般基礎の座学、それ以降は義手や義足、装具の製作実習を行いました。 実習に先立ちその内容を決定するためにもたれた会議では、研修生本人たちから「自国とは異なる 製作方法」、「体験したい製作方法」等をインタビューしました。研修生の出身国の中には、 義肢装具の学校がない国や、学校はあっても資格制度までは整備されていない国もあり、 義肢装具について体系だって勉強するのは初めての人もいました。そのため実技研修の場では、 指導するにも基本的なことをしっかりと伝え、一人一人の進行状況と作業内容を確認しながら 進めていきます。研修生が母国に帰ったとき、センターの研修コースで使った物と同じ材料が 使えるとは限らないため、製作に最低限必要な知識を学んでもらうことに重点を置いています。
 義肢の実技研修では、義手や義足を使用しているユーザーにモデルをお願いし、採型、 製作の後、各々が製作したものをモデルに装着してもらいます。義手は操作できる状態に、 義足は歩行できる状態にし、仕上げの作業を行います。装具は研修生同士で採型し合い、 実際の装着感を自身で確認してもらいました。作業に慣れた研修生とあまり慣れていない 研修生で進行に差がでたこともありましたが、お互いにカバーしあいながら作業を進めていました。 実習の途中で行う講義では、わからないところがあるととことん説明を求め、研修終了時間を 大幅に超えてしまった日もありました。
 研修コースの中には施設見学や学会参加を盛り込んでいます。施設見学では、義肢装具の 材料メーカー、日本で最も大きな義肢装具製作会社、療育センター、リハビリセンターなど、 義肢装具に関連する幅広い分野の施設を見学しました。国際福祉機器展では膨大な数の 福祉用具を実際に手に取るとともに、日本最先端の福祉技術も目にしてもらえたことと思います。 名古屋で開催された日本義肢装具学会では、皆熱心に会場で講演や演題を聞いていました。 幸い今回は海外からの招待講演が多く、英語で演者の話を聞けたことが良かったようでした。
 研修を離れる休日は、地域の国際交流進行団体「所沢インターナショナルファミリー」の 会員の方々が家に招待して下さり、研修生が日本の文化に触れる機会も数多くありました。 休み明けに覚えたての茶の飲み方を楽しそうに見せてくれるなど、日本に親しみを持って もらえたことをうれしく思います。
 研修を終え、思い出されることは数々あります。その中で1つ大変印象に残っているのは、 アフガニスタンから来たアシュラフさんの表情が、センターに着いたばかりのときとセンターを 去るときとで別人のように変わっていたことです。アフガニスタン復興のために、と熱弁を 振るう時は変わらず真剣でしたが、険しさが目立っていたその表情も最後には柔和な笑顔が増え、 私たちにも友人としての親しみを持って接してくれるようになりました。しかし、これは日本に 慣れたというばかりではなく、アフガニスタンが現在おかれている環境が当初の彼の厳しい表情を 作り出していたのだと考えると、胸中複雑な思いがわきあがってきます。研修生はそれぞれの国へ 帰りましたが、本コースを通して、今後彼らの母国に有益な国際協力であることを願ってやみません。



「JICA補装具製作技術コース研修」の様子