〔研究所情報〕
快適にスキーを楽しめる義足部品の開発
〜障害者スポーツの普及のために〜
研究所 補装具製作部 義肢装具士長 小池 雅俊



 補装具製作部では財団法人テクノエイド協会の福祉用具研究開発助成事業助 成金(平成15−16年度)をうけ、障害者スキーに対する実績のある複数の企業 とともに、身体障害者が快適にスキーを楽しむための義足の足継手(足関節) を開発しました。開発に当たっては義足製作者のほかに医師、リハビリテーシ ョンエンジニア、障害者スポーツ指導員が参加し、実際の滑走性能を重視して 行いました。
 この足継手はスキーに必要な膝いれ動作を適切に再現するための角度調整機 構と反発力を備え、かつ、通常使う義足の部品との互換性があり、義足の足部、 パイプなど従来の義足部品を組み合わせることが可能です。(図1)
 構造はカーボンファイバー製でコの字型のリーフスプリングの開口部に交換 式のウレタンバンパーを挟み、継ぎ手自体に傾斜角を付けて十分なアライメン ト調整範囲をもたせています。このカーボンファイバー製のスプリングが膝屈 曲時に反発力を発生し、広い可動域で適切な返りを生み出します。(図2)こ のスプリング幅のトリミングとウレタン製バンパの硬度変更により幅広い技術 レベル、体格への対応が可能となりました。
 身体障害者スポーツにおいて、陸上競技では市販の義足足部で、100mを11秒 台で駆け抜ける下腿切断(膝下の切断)者やウインタースポーツでもチェアス キーの技術は世界のトップレベルにある一方で、下腿切断者にとってはそれを 支える用具の開発は十分とはいえませんでした。冬のスポーツに代表されるス キーなどの滑るために必要な機能は走行とは異なるため、下腿切断者の多くは スキーをする場合、義足を使用せずアウトリガーと呼ばれる小さな板がついた 杖を使います。この場合は両手をふさがれてしまい、義足をはずしているため 駐車場からスキー場への移動は困難ですし、片脚で滑るために滑走に伴う疲労 も大きくなります。しかしスキーのように足首の動きを制限する場合は適切な 機能を持つ部品が供給されれば、バリアとなっている用具の問題を解決し、よ り快適に楽しむことができます。
 この問題に対し過去に競技用下腿義足の開発を行いましたが、コストと汎用 性の面から一般の方には手の届かないものとなっていました。そこでスキー用 義足に必用な機能は何か、ユーザーが抱える問題と解決方法についての調査を 行い、改善方法を検討してきました。(この結果は障害者向けのリーフレット として日英版を配付しています。)これらの調査結果とこれまでの研究成果を 基に、今回の足継手の開発が行われました。
 使用に当たっては、義足への組み付けと使用者の筋力や技術レベルに合わせ たスプリング幅の調整は義肢製作所にて行う必要がありますが、スキー場での スキーブーツのバックルによる反発の調整も可能です。スキー靴を履けば外観 ・歩容は健常者と変わりません。(図3)また、初心者でもこの足継手を使用 することにより駐車場からの移動を含めてスキーが容易になります。中級者以 上の滑走においては義足と健側の違いが一見わからないレベルの滑走が可能と なります。(図4)
 今回開発した足継手は被験者の方達からも好評で、近日中に製品化される予 定です。



(図) 義足の構成例
図1 義足の構成例
(写真) 開発した足継手(○内)
図2 開発した足継手(○内)
  
(写真) 装着した様子
図3 装着した様子
(写真) 競技経験者の滑走(左下腿義足に装着)
図4 競技経験者の滑走(左下腿義足に装着)