新任挨拶
病院長 江藤 文夫



(写真)病院長 江藤文雄

 10月1日付で病院長を拝命いたしました。これまでは、獨協医科大学、東京 大学医学部と、もっぱら医師の教育機関で仕事をしてきました。いわば文部科 学省とのかかわりが深い仕事でしたが、厚生労働省直轄機関での本務は初めて の体験です。
 私のリハビリテーションとの関わりは、学生時代の終わりに生じた空白期間 に単純な好奇心から自由選択で、4週間のリハビリテーション医学コースに参 加したことから始まりました。出席は任意でした。最初10数名いた受講者で、 後半の2週間神奈川県丹沢山系の麓に新設された七沢温泉病院に泊まりこみの 実習を貫徹したのは私を含む二名のみでした。二人ともリハビリテーション医 学を専攻する気など毛頭ありませんでした。当時、東大病院リハビリテーショ ン部(文部省レベルでの正式名称は理学療法部)の部長は物療内科の佐々木智 也助教授でした。そのカリキュラムは当時の物療内科医局長のご配慮によるも のでした。
 卒業後は、直ちに入局することなく、内科系のローテート研修を受けました。 そこでは、有効な治療法のない疾患の診断をつけただけで、患者さんやご家族 から感謝の意を表されるものの、やりきれない思いをするケースに度々出会い ました。そうしたときに、学生時代に触れたリハビリテーション部にも出入り するようになり、2年目の後半はリハビリテーション部での研修を選択しまし た。当時の部長は整形外科の故津山直一教授(当センター第二代総長、名誉総 長)でした。直接診療を統括されていたのは後に専任部長・教授に就任された 上田敏先生でした。この期間に、東大整形外科の新人クルズスに参加したり、 戸山町の厚生省社会局更生課所管の国立身体障害者センターで開催された補装 具適合判定医師研修会(第2回)を受講したりしました。研修会は故初山泰弘 先生(当センター第三代総長)のご配慮によるもので、この会でリハビリテー ションの同志として今日でも親しくお付き合いしている先生方と出会いました。
 結局、老年病学教室(老人科)に入局することになりましたが、老人科では 臨床神経学を担当することとなり、脳卒中、パーキンソン病、脊髄小脳変性症、 アルツハイマー病など治療としてはリハビリテーションがすべてといったよう な対象を前にして、リハビリテーション部に出入りせざるを得なくなりました。 以来、籍をリハビリテーション部に移し、獨協医科大学に転出し、さらに東京 大学に戻った後も、津山先生のご指導を受けることとなりました。
 我が国のリハビリテーション科は整形外科との関係が親密ですが、すべての 診療科と関わるもので、臓器別あるいは疾患別の診療科とは異なり、障害を標 的とした横断的な専門診療科です。そこでは理学療法、作業療法などコメディ カルスタッフとのチームアプローチが診療の基本となります。さらに、リハビ リテーションは医療にとどまるものではなく、社会経済的取組がより重要でも あります。病院が、急性期、回復期、療養施設へといった機能分化が加速され る今日、更生訓練事業が第一義的役割である当センターの病院には独自の機能 が求められています。医学的リハビリテーションにより最大限の機能回復を達 成することと並んで、障害を持って生活する方々へのプライマリケアの提供と 健康管理も大切な課題です。後者は内科的知識と技術の領域ですが、我が国で 普及段階にはありません。しかし、一般企業の職場で就業する障害のある方々 のプライマリケアが、それぞれの診療室でも提供されるためには、当センター の病院で培われてきた知識と技術の伝達が役立つと期待されます。21世紀の医 療と福祉の中核を担う公的機関のユニークな病院として、これまで諸先輩が築 いてきた偉大な業績を受け継ぎ、さらなる発展を目指して精一杯努力する所存 でおりますので職員の皆様のご協力をお願いいたします。