〔魚拓シリーズ3〕
作品「イトウ」
前理療指導室長 川政 勲


(図) イトウのカラー魚拓


 この「イトウ」は自分で釣ったものではない。実は北海道大学水産学部淡水 魚研究施設の施設長(水産学部教授)から頂いたものである。
 函館山の麓にある喫茶店で個展を開いたときに、施設長が作品をご覧になっ て「実物大に綺麗にとれる」カラー魚拓に感動し、「自分の研究している淡水 魚を、成長の過程毎に魚拓にし保存できる」と、指導を乞われ、私も是非お手 伝いさせていただきたいということだったので、教室のお仲間に招きいれた。
 当時北大水産学部では、青森県鯵ヶ沢町の依頼で、「イトウ」の商品化を図 るお手伝いをしていた。
 施設内の大きな生簀には何十匹もの「イトウ」が飼育されていた。
 研究には主に血液、精子、卵等が大切で、魚体は余り重要視されてはおらず 、血液、精子、卵が採取されると魚体は飼っている猫の餌にしたり、穴を掘っ て埋められていた。
 「イトウ」はサケ科イトウ属の魚で淡水魚では最大の魚で、北海道の根釧原 野や空知川に棲息する極めて原始的な魚である。
 性格は極めて獰猛で、魚偏に鬼という字が当てられているほどであり、目の 前を横切る生き物なら何でも喰らいつくのではないかと言われる。フナ、ドジ ョウ、ヤマメ、カワガレイ、カエル、ネズミ、蛇と。
 かつては2mもの怪物も居たそうであるが、最近はご多分にもれず乱獲により 、数も型もがた落ちで、1m級も滅多に釣れない。
 ましてや俄か釣師がちょっと行って釣れるような状況にはあらず、何年も通 い、何週間も準備して釣行しても滅多に釣れない難しい魚である。
 1m以上ものものが釣れると、料亭や高級旅館等から100万以上もの値で引き 取られ、剥製にされて飾られるそうである。
 ヘボな釣師の私には夢のような話であるが、魚拓家としては是非とも拓して みたい魚だったので、教授にお願いし、研究の終わった「イトウ」を頂き作品 となった次第である。
 大きな魚は冷蔵庫では保存できない。従って頂いてすぐに取り掛かったので あるが、淡水魚はヌメリが強く、何度塩で擦ってもヌメリが取れない。拓紙を 乗せても乾かない。使う絵の具は油絵具なので紙が塗れているから色がのらな い。やっと何とかできて魚体から拓紙を剥がそうとしても剥がれない。そして 無理に剥がそうとすると紙が破れてしまい、折角の作品が台無しになってしま う。
 4枚か5枚失敗してようやく出来た作品であり、函館の古い魚拓家に「良い 色だ」と絶賛された。