〔魚拓シリーズ4〕
岩魚
前理療指導室長 川政  勲




 岩魚はサケ科イワナ属の魚で、頭が小さく鱗は他のサケ科の魚に比べて大変 小さいこと、側線は鮮明で胸鰭、腹鰭、尻鰭の前縁が白く縁取られている。
 ヤマメやアマゴより更に上流に棲む。源流のとても魚の棲めないような細い 流れや溜りにも棲息できるという。
 岩魚は貪食で蛇さえも喰うが、渓流は餌が乏しく、窮屈な岩の下などが棲家 なので、せいぜい30cm台が限界。北海道でも40cm以上の大物は、年に数匹しか 釣れない。
 岩魚釣りに初めて挑戦したのは函館に転勤した時であった。職場のベテラン 釣師二人に誘われ、道具も長靴も借り物、仕掛けも作ってもらった物での釣行 であった。
 山道に入る前に江差線の踏切を通る。そこには無人駅がある。「前、ここに ヒグマが寝ていて、郵便屋さんが見つけ大騒ぎになったんだよ」とベテラン二 人は笑いながら脅かす。
 朝5時に川へ降り、早速仕掛けを投入するが、初心者の悲しさ。岩魚はすぐ に掛かったが、竿を上に上げると糸が木の枝に絡みつき、魚は逃げる、仕掛け は使えなくなる。川石に滑って転倒しずぶ濡れ。風で木の枝がざわざわ音を立 てると熊が出たのかと怯える。ベテラン二人はお構いなく釣り上ってゆく。
 伊東で釣りはやっていたと組合の新聞で知らされていた。意地でも岩魚を釣 らなければならない。
 借りた長靴は1cmも小さいので爪先が痛くなってくる。魚籠は持っていなか ったため、6リットルのクーラーを肩にぶら下げていたが、それも氷や魚の重 さで食い込んでくる。
 8時間後ようやく行き止まりの堰堤に着いて終了。
 だが帰りもまた難関の下り坂。ベテラン二人は山菜などを採りながら悠々と 前を行く。これが又歩くのが早い。
 爪先が痛み血豆が出来ている。木の葉の風に鳴る音にビクビクしながら必死 に後を追いかける。車が見えたときの安堵感は言葉では言い表せないほどであ り、飲んだビールの味は忘れられない美味さであった。
 結局岩魚は11匹釣れたが、ベテラン二人は3倍も4倍も釣り上げていた。
 身も心も散々な岩魚の初釣行であったが、その経験を活かし、道具も新調し 、仕掛けも自分で作り、玉網を腰に差し、3回目の釣行で40cmの岩魚を釣り上 げた。それから岩魚釣りに夢中になり羆との遭遇になる。

 岩魚釣り終へて山の湯目指しけり  いさお


(図)複数の岩魚のカラー魚拓
 
(図)27cmの岩魚、写真下は40cmの岩魚
 写真上は27cmの岩魚、写真下は40cmの岩魚