〔国際協力情報〕
平成18年度JICA
補装具製作技術研修コース実施報告
研究所補装具製作部



 平成18年9月15日から11月30日までの日程で、JICA補装具製作技術コースの研修会が行われました。今回は義足製作をメ インテーマとした短期集中型プログラムです。
 今回の研修生は、コロンビアで大学の先生をしているトレスさん、ザンビアから義肢装具士のピーターさんの2名です。 初日に行われた開講式では、各国の義肢装具事情が報告されました。今やコロンビアは世界で一番地雷が多い国であり、そ の被害者が多数いること、ザンビアでは資格を持った義肢装具士が国内にわずか5名しかいないことなど各国の抱えている 問題点が報告されました。
 研修は座学と実技研修に分かれ、座学では日本の著名な先生方から義足全般について学びます。実技研修では、義足を使 用しているユーザーにモデルをお願いして、採型、製作の手法を学び、各々が製作した義足を装着してもらい適合評価を行 います。特に実技研修では、製作の基本的ポイントを確実に伝え、理解してもらうことにしています。たとえ研修で使った 物と同じ材料や道具がなくとも、基本的なことが理解されていれば、研修生が帰国後も義足製作に活用できると考えている からです。また、研修生の出身国には義肢装具の学校がなく、体系的に勉強する機会も少ないことから、今回新たにサブテ キストも制作しました。彼らが帰国後に指導的立場になることを考えて、義肢装具製作の教え方を伝えることも目的の一つ となっています。
 研修コースの中には施設見学や学会参加の機会も設けられています。施設見学では、義肢装具の材料メーカー、日本最大 の義肢装具製作会社、療育センター、リハビリセンターなどの施設を見学しました。国際福祉機器展では膨大な数の福祉用 具と日本最先端の福祉技術を目にし、圧倒されたとのことです。熊本で開催された日本義肢装具学会学術大会では、熱心に 講演や演題を聞いていました。特にトレスさんはコロンビアへ帰国後、義肢装具の国際会議を開く要職にあり、学会の運営 やプログラムの構成、企業展示などは大いに参考になったようでした。
 休日は、地域の国際交流進行団体「所沢インターナショナルファミリー」の会員の方々の協力で、日本文化に触れる機会 も数多くありました。
 今回の研修生は、研修の途中で積極的に質問をする姿勢が目立ちました。時には研修生同士で議論しあうこともあり、内 心ヒヤヒヤしましたが、置かれている状況も価値観も異なる研修生が参加する国際的なこのコースならではと思いました。 教える側としてもどちらか一方の要求ばかりに偏らず、バランスをとりながら技術伝達をしてゆかなければなりません。
 研修の終わりに研修生と雑談をしているときのことです。「何が印象に残りましたか?」と尋ねると、研修生の一人が「日 本人の作るものは質が高く、日本人は『心』をとても大事にすることが印象に残った。」という答えが返ってきました。リ ップサービスかもしれませんが、これは、効率ばかりを追い求める殺伐とした現代日本において、我々が忘れかけているもの を呼び戻す一言でした。製作技術だけでなく、研修中に感じた日本の良さも自国へ持ち帰り、何らかの役に立ててくれればと 思います。そして、この研修の最大の目的は開発途上国の義肢装具製作技術の向上です。この研修の本当の成果は、いつの日 か彼らや彼らの教え子たちと会うことで確かめられることでしょう。


(写真1)研修中のトレスさん
研修中のトレスさん

(写真2)研修中のピーターさん
研修中のピーターさん