〔センター行事〕 |
第3回職員研修会開催報告 |
更生訓練所長 江藤 文夫 |
第3回職員研修会は、静岡県立大学国際関係学部の石川 准教授をお招きして、平成18年11月10日に本館大会議室で開催されました。石川先生は、ご
自身が全盲の視覚障害者であり、当日は「配慮の平等―障害者の視点―」と題してお話くださいました。ご自分で多数のコンピュータ・ソフトウエアを
開発してこられ、パソコンを駆使して分かりやすいプレゼンテーションを工夫して聴衆をテーマに向けてひきつけました。
はじめに「きつねとぶどう」のスライドにより講演の主題のひとつを提示されました。イソップ物語では、おいしそうなぶどうを見つけた狐が跳んだ
りはねたり一生懸命に努力した挙句、手にとることができず「あれは酸っぱいぶどうだ」と負け惜しみの捨て台詞を残して立ち去るわけですが、この
「できない」ことがもつ可能性に着眼します。手に入れるために道具を工夫するなど「方法を考える」きっかけとなり、便利なものや有用なものが生ま
れる可能性があり、ぶどう以外にいろいろな果実を発見して新しい「価値を生み出す」こともあるでしょう。方法を考えることと価値を生み出すことは
相補的なものです。
次いで障害をめぐる歴史的に重要な出来事を紹介し、近代社会の基本原理を整理して、障害の見方あるいは障害の本質にも言及しながら、世の中には
「配慮を必要としない多くの人々と特別な配慮を必要とする少数の人々がいるのではなく、すでに配慮されている人々といまだ配慮されていない人々が
いる」という認識から、「配慮の平等」が求められていることを気づかせました。そしてバリア・フリー社会や共生社会の構築という政策的なスローガ
ンの持つ複雑な側面にも触れ、当事者と援助者の関係では専門職はアシストに徹するのがよいことを強調されました。
その他にもものづくりにおける当事者ならではの貴重な発言が数あり、「自分たちの道具は自分たちで作る」というご自身の実績に裏打ちされた指摘
は強烈でした。当日は言及されなかったようですが「障害の文化」の主張を感じました。
医療、自立支援、研究などを通じてリハビリテーションに従事するものとして、多くのことを考えさせられましたが、インクルーシブな社会の構築を
目指して方法を考えることと、価値を生み出すことへの努力が私どもにも求められていることを感じました。
やや重たい中身の研修会でしたが、引き続いての懇親会には大勢の職員が参加し、研究開発や人材養成に向けてコメントをいただくことができ、貴重
な時間をもつことができました。遠路ながら、快くご講演をお引き受け下さった石川教授に改めて御礼申し上げる次第です。