〔研究所情報〕
第36回北米神経科学学会参加報告
研究所感覚機能系障害研究部
感覚認知障害研究室長 神作 憲司



 平成18年10月14日から18日に米国・アトランタにて行われた第36回北米神経科学学会に参加した。本学会は、 神経科学の分野で最大の学会で、ここ数年は3万人以上の参加者を記録している、という規模の大きさである。 およそすべての最新の神経科学分野の情報を集め得る場であることから本学会には大変魅力を感じていたのだが、 気が付けば私も、今年で10年連続での参加、9年連続での発表となる。参加し始めた頃にはまだ目新しかった機 能的磁気共鳴画像(fMRI)や脳磁図(MEG)といった神経画像の手法も、今やすっかり人間の脳機能を理解するた めの一般的な手法となっているのは、十年一昔、というところだろうか。
 今年の本学会は、当初はニューオリンズにて開催の予定であったが、平成17年のハリケーン・カトリーナの影 響で、アトランタへと変更となった。ハリケーンの際に多くの被災者が駆けつけたとして報道されたのが、平成 15年には本学会の会場として用いられた会議場でもあった。犠牲者のご冥福と街の少しでも早い復興をお祈りし ます。アトランタも、古い南部の雰囲気を残すニューオリンズ同様、南部の街であり、キング牧師の街としても 知られているが、高層ビルやショッピングモールが林立するその町並みは、南部というよりも東部の大都市その ものである。
 毎年のことだが、本学会に出席すると、運営に携わる人々から、神経科学の発展のために貢献するのだ、とい う気概を感じる。私自身、平成13年から16年まで、米国立衛生研究所(NIH)・米国神経疾患卒中研究所(NINDS) に連邦政府公務員として勤務した経験があるが、NIHの職員から、医学の発展のために貢献するのだ、という気概 を感じたのに少し似ている(NIHの場合は米国の発展のため、という要素もあるのだが)。運営も毎年ながら、大 変組織立っており、大規模学会にも慣れたもの、という感じである。あえて難を言わせてもらえば、今回は口頭発 表の会場が広い学会場の何箇所かに分散しており、興味のある演題が並んだ時間に遠くの会場で行われる際には、 どちらかを拝聴するのを断念させられたところくらいだろうか。
 私自身はここ数年、新たな高次脳機能の客観的評価手段の確立、および新たな神経科学に基づくリハビリテーシ ョン法の確立のための基礎研究として、人間が概念を生成する際の脳内情報処理機構を、特に数概念やカウンティ ングに着目して明らかとする研究をテーマの一つと行ってきているが、今年は私のテーマに近い研究をしていなが らこれまで議論する機会の無かったいくつかのグループ(計算に着目し数概念の脳内情報処理機構を研究している フランスのグループと、サルを用いて量の脳内情報処理機構を研究しているアメリカ、ドイツのグループ)が、私 のポスター発表に立ち寄ってくれて、活発な議論を交わすことができた。国籍を問わず、それまでは論文などでお 互い名前しか知らなかった研究者同士が直接出会い、議論をするというのは、本学会に参加することで得られる重 要な機会だろう。
 本学会にて発表される内容は、毎年のことながら大変多岐にわたるが、本年は、例えば自閉症などの発達障害も 大きなテーマの一つとなっており、多くの発表がなされていた。また、例えば私が留学していたNIH・NINDSからも、 これまでの運動記憶に対する視覚認知の関与についての研究が、麻痺を伴う患者さんを対象として引き続き発展さ せられていた。総じて、臨床応用の視野を持ちながら基礎医学研究を継続し、土台がしっかりとしている研究所か らは、基礎医学研究、臨床研究共に、良質で魅力的な成果が発表されていたように思う。NIHなどに代表されるこう した研究所の戦略と成果に触発されながら、長い帰国の途に就いた。



(写真1)会議場の入り口付近:CNNの本社ビルに近接する。
会議場の入り口付近:CNNの本社ビルに近接する。

(写真2)ポスター会場:多くの研究者が活発な議論を交わしている。
ポスター会場:多くの研究者が活発な議論を交わしている。