〔研究所情報〕
浦河町における障害者・高齢者の
参加する防災活動モデルづくり
研究所障害福祉研究部
我澤 賢之



  ●はじめに
 現在、研究所障害福祉研究部のメンバーは、北海道浦河町において障害者・高齢者の参加する防災活動モデルづくりの研究を現 地と共同して進めています。これは、情報技術を活用することで、地域住民による正しい知識に基づいた防災計画作りを障害者・ 高齢者の参加のもと進め、それぞれが災害時に正しく判断し安全に避難できるようにすることを目指すものです。そのなかで、障 害者・高齢者ならではの知識(例えば、災害時にパニックにならない工夫や過去の津波浸水範囲など)を活用したり、精神障害者 も近所の移動が困難な人の避難支援をするなど、障害者・高齢者の力を防災に引き出すねらいもあります。
 本研究は、科学技術振興調整費により進められています。


なぜ浦河町なのか?
 浦河町は北海道襟裳岬の西北に位置する人口15,426人(2006年5月末)、日高支庁の庁舎のおかれている町です。


(図)浦河町

〈浦河町〉
 浦河町は地震多発地帯にあり、住民に地震対策が浸透している様子がうかがえる一方で、津波対策については整備途上というニ ーズがありました。また、本研究ではまちのなかで暮らす障害者の役割が重要ですが、浦河には精神障害をオープンにして地域に 暮らす社会福祉法人「浦河べてるの家」(以下、べてる)のメンバーの存在がありました。


●取り組みの状況
 2003年秋以来、障害福祉研究部では何度も浦河を訪問し、べてる、町役場、自治会、障害者・高齢者を含む住民との協力関係を 少しずつ作りあげてきました。またこれと並行して、防災活動に用いる情報技術開発、その国際標準化、障害者の防災に関する知 識・ノウハウの集積を、外国の技術者、障害者、専門家とも連携して進めてきました。
 これらの準備を重ね、昨年、地域防災演習の開催にこぎつけました。町内2カ所の自治会では、それぞれ障害者・高齢者を含む 数十名の住民の参加のもと、津波浸水予測範囲、標高が記されたB0サイズの自治会地図を「うらかわGIS」という防災情報共有のた めの電子地図システムから印刷し、これを囲んで各戸からの具体的な避難場所・経路を検討し、障害者・高齢者の避難支援につい て意見を交わしました。普段近所と話すことのない障害のある参加者にとっては、他の住民との交流をもつ機会にもなりました。 一方、べてるの作業所、住居でも防災演習が行われました。避難経路検討後、それを5分程度にまとめたマルチメディアを使って 事前予習を行い、まず頭で理解してから実際に避難経路を歩いてみたところ、スムーズに訓練を行うことができました。
 これらの取り組みの成果が、昨年11月15日夜千島列島沖での地震の際にあらわれました。浦河町に発令された津波注意報を受け て、海沿いに住むべてるのメンバー15人が互いに連絡を取り合って自主的に避難場所の浦河高校まで避難したのです。町の防災担 当の方からも「よくぞ、避難してくれた」と評価され、この研究が障害者の役に立つことをあらためて実感できたように思います。


(写真1)うらかわGISのウェブブラウザ画面 (写真2)マルチメディアによる防災マニュアルの表示画面

〈うらかわGIS:ウェブブラウザ上画面〉

〈マルチメディアによる防災マニュアル〉

 この研究は障害者の参加・協力があって進められ、その結果、協力をいただいた障害者に研究成果を具体的に還元できつつある、 いい例ではないかと思います。障害者に役立つ研究・開発をしていくためには、当事者やその周囲の人の知識や発想や意見なしでは うまくいかないでしょう。これからの国リハにとって、フィールド作りや障害者を含む外部との連携、それを活かしての社会モデル 的な視点での研究は必須だと思います。防災モデルづくりも普及が次の課題ですが、粘り強くがんばっていきたいと考えています。