〔巻頭言〕
社会資源
更生訓練所理療教育部長 田村 一



 朝日新聞の土曜日の特集記事の中に「新市民伝」という記事が連載されていたのをお読みになった方も多いと思います。環境や教育、福祉、まちづくりなどの分野で、行政や企業とは異なる立場で、自ら進んで公共的な活動を担う人々の活動を毎回取り上げたものです。

 記事では社会には大きく分けて3種類の組織があるといいます。行政(政府や地方自治体)と営利企業と、そのどちらからも独立した民間の非営利団体の3種類。三つ目の組織としては、いわゆるNPO(非営利組織)やNGO(非政府組織)がこれに当たるわけですが、記事ではこうした組織の活動を現在の「市民活動」と位置づけ、その担い手を「新市民」と呼んでいるのです。硬直的な行政と利益優先の企業だけでは、社会は行き詰まる。「新市民」は、@新しい問題に取り組む先駆性A縦割りの分野をつなぐ総合化の能力B多様な政策を示す提言性C機動力という点で行政に勝る、企業に対してはD消費者の立場からチェックする。こんな機能で社会を変えつつあるという認識を示したうえで、こうした活動がこれからの日本社会の中でますます重要になる、と評価しています。

 「先駆性」の例として、福祉の分野では東京都立川市の「ケア・センターやわらぎ」による利用者の介護メニューがすぐ分かるソフトが介護保険のモデルとなったことを紹介し、あらたな制度が現場の先駆的取り組みから生まれたことを物語るものとして位置づけています。またこの欄とは別ですが、最近の記事においては、富山市にあるNPO法人「この指とーまれ」のデイケアハウスの取り組みが紹介されています。ここでは介護の必要なお年寄りから元気な赤ちゃんまで「このゆびにとまった」人はみんな預かる。そしてそれぞれが自分に出来ることをし、助け合いながらまるで家族のようにくつろいでいる、といった生活空間が用意されているのです。この「生活する」という面で当たり前の風景が、実は高齢者、障害者、児童と厳しく線を引く福祉の世界では相当「型破り」なものであり、当初市からも「高齢者か障害者のどちらかに絞れば補助金が出る」との説得もあったようです。その後多くの人々の共感を得て、行政は柔軟な補助事業を打ち出して支援を始め、今では「富山型デイサービス」として広がりを見せているということです。

 各種福祉サービスの利用に際しての地域重視は、上の「富山型デイサービス」の例のように、地方分権推進のもと権限委譲や「三位一体改革」の流れの中での財源移譲の議論も踏まえて、確かなものとして定着しつつあります。「障害者自立支援法」に基づく新たな障害者地域生活支援の仕組みも「共生社会」の実現と共にその延長線上にあります。そしてその具体的な手法のひとつとして、各地域において、必要な方がいつでも必要な生活支援などを受けられるよう、住民参加のもとに多様な「社会資源」を整えることを「障害福祉計画」の中できちんと明らかにすることが求められています。

 その際の社会資源とは、「社会福祉法人」などの事業主体もさることながら、これまでに観てきたような「新市民」が担う先駆性、総合化、多様性などの面で小規模ながら機動力のあるNPO法人などの存在が大きいと考えられます。そしてこうした多様な社会資源がネットワーク化を通じて、利用者のさまざまなニーズに対応してそれぞれの役割がきちんと果たせるような、トータルなマネジメントの仕組みも必要になってくると思います。もちろんそのネットワーク化は、福祉の分野だけでなく雇用、教育、保健医療、住宅、環境、まちづくりなどの分野も含めてのものにならなければいけないものです。

 こうした社会状況が進展しつつある中で、私ども「国立更生援護施設」も地域におけるひとつの「社会資源」として一定の役割を果たすべく広く関係の方々と検討を続けております。皆様方からもご意見、ご提言を頂戴できればありがたいと思っております。