〔研究所情報〕
理療教育課程における学習支援システム構築への協力
研究所 福祉機器開発部 伊藤 和幸



 現在、所沢のリハセンターには「いとうかずゆき」が二人います。一人は研究所の伊藤和幸(本稿執筆者)、もう一人は理療教育部(以下理教部)の伊藤和之さんで、郵便物や外線電話の混同がしばしばあります。研究所と理教部では仕事内容は違うのですが、和幸(研究所)が多少視覚障害に関係していたこともあり(平成13-15年度:点字利用が困難な盲ろう者向けの簡易エディタの開発)、名前(いとうかずゆきさん)と所属が分からず大まかな分野(視覚障害関係)だけで電話をかけた場合には、電話をかけた方も電話交換の方も「???」となることがあるようです。大抵は和幸(研究所)に回ってくるわけですが、受け取った私も「???」となります。

 さらに混乱を招く事態が起こりました。和之さん(理教部)が主任研究者となり、「文字利用が困難な高齢中途視覚障害者のための理療教育課程における学習支援システムの開発並びに普及に関して」という課題で厚生労働科学研究費の補助をうけ、平成18年度より研究を進めることになり、和幸(研究所)も分担研究を引き受けております。本研究の背景には、和之さん(理教部)の長年の調査研究結果があり、次のような課題が挙げられています。

 中途視覚障害者の多くは、あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師の国家資格取得による職業的自立を目指し、全国5箇所の国立施設理療教育課程に在籍し、3年もしくは5年にわたる専門教育を履修しています。しかし、中・高齢層の中途視覚障害者は点字の習得・使用が困難であり、弱視者の中にも障害の程度や進行によっては、普通文字(墨字)の使用が困難となるケースが後を絶たないことが示されています。近年では学習補助具の多様化も進み、弱視レンズ、拡大読書器、テープレコーダーをはじめ、パソコン、DAISY専用機、電子辞書、携帯電話など様々な器機を所有し、学習に活用するケースが増えていますが、適切な文字入力手段(学習手段)を持たない中途視覚障害者は、試行錯誤の末に録音機器を用いて授業を記録し、自習時に聞き返す学習方法を導入していることが多い。しかしながら、1コマ45分の授業を6コマ分録音し、さらに聞き返して学習するという方法は、復習やまとめに膨大な時間を要するために負担が大きく非効率的であり、何らかの解決方法を提案する必要がある、というものです。

 一方、和幸(研究所)は、これまでに肢体不自由者向けに符号化入力式(モールス符号や携帯電話式など)のパソコン入力装置の開発を手がけており、少ない操作キーによる文字入力システムは視覚障害者が利用している6点入力(点字タイプライター方式)にも応用可能です。そこで、本研究では、(偶然ではありますが)同姓同名のいとうかずゆき(研究所と理教部)が協力し、理療教育課程での学習においてノート・テイキングに苦慮する中・高齢層中途視覚障害者の学習支援システムを構築することとしています。

 現在、入所生の意見を聞いて具体的なニーズを抽出しつつ、メモ機能を搭載した点字タイプライター方式の簡易文字入力装置の開発を行っているところです。また、他分担研究者の協力により手書きによる文字入力システムの開発も平行して行っております。

 巷では脳年齢の測定が話題となっていますが、手を動かし、メモを取る作業により、学習効率が高まることが期待されます。これは、最近漢字の変換はワープロまかせの我々にとっても同じ効果を生むかもしれません。手書き文字入力を試してみた入所生の「漢字の書き取りテストを受けているようだ」という感想が興味深いものです。

 余談ですが、カナやローマ字では区別が付かず、漢字変換をいれないと区別できない二人の「いとうかずゆき」。学会発表や報告書に記載する際には紛らわしいので、ミドルネームを付けようか、という話もあります。何か洒落た名前はないでしょうか。