〔巻頭言〕
「障害のある方の人間ドック」開設十五年
病院第一機能回復訓練部長 佐久間 肇



 障害のある方においても高齢化は確実に進んでおり、障害特性に基づくさまざまな二次的障害とともに生活習慣病やメタボリックシンドロームも日常生活を脅かす重大な健康阻害因子として認知されてきている。しかしながら、障害のある方、特に車椅子利用者においてはいわゆる住民健診の受診率は極めて低く、就職率も高くない中で、職域検診を受診できる方は限られている。また、在宅の車椅子生活者を対象とした在宅障害者健康診査事業が国の補助のもとに行われていたが、最近、全面的に地方自治体の事業としておろされた結果、同事業から撤退していく自治体が増えており、障害のある方の健康管理環境は依然厳しい状況が続いている。

 当センター病院では、障害のある方の健康管理の一助となるべく1992年に「障害のある方の人間ドック」を開設して運営してきた。また最近は、外来通院の方とその家族を主な対象に健康教室を月1回開催して、健康管理意識の向上に努めている。ここに、開設から15年たった「障害のある方の人間ドック」について振り返るとともに、その結果からみた健康状態について紹介する。


(1)「障害のある方の人間ドック」開設の背景

 「障害のある方の人間ドック」を開設するにあたっては、肢体不自由者、視覚障害者の方を中心に、その需要についてアンケート調査を行ったが、過去に60%位の方が人間ドック受診を希望したが、実際に受診できている方はわずか4%程度に留まり、調査時点で、今後の人間ドック受診を希望された方は70%にのぼった。また、日本人間ドック学会に登録されている全国の病院・施設における障害のある方の受診状況の調査を行ったが、受診数は極めて少なく、多い施設でも年間3〜4名程度で、受診阻害因子として、「施設・病院内での移動や検査機器やベッドへの移乗」の対応が一番にあげられた。一般的に行われている人間ドックでは、数多い検査を受診者が移動して行くことで、流れ作業的に実施されてゆくので、移動、移乗動作に介助を要することが大きな受診阻害要因となっていたのである。


(2)「障害のある方の人間ドック」の状況

 以上のような検討から試行を経て「障害のある方の人間ドック」が開設された。ベッド上で行う検査はできるだけ一箇所でまとめて機器をそこに移動させて行うことや、バリウムを飲めない(飲んではいけない)方には、食道・胃内視鏡検査を選択するような配慮をし、半日ドックと1泊ドックを用意している。

 1992〜2006年末までに、106名の実受診者(男:女=95:11、年齢45.6±13.1歳)があり、繰り返しの受診者が多い。障害別では、脊髄損傷64名、脳血管障害11名、脳損傷などの脳障害6名、聴覚障害5名などであった。

 106名中104名に初診時検査上何らかの異常値を認め、内、64名は肥満、高脂血症、高血圧、糖尿病、高尿酸血症であり、さらに、メタボリックシンドロームの診断項目の空腹時血糖高値(110mg/dl以上)、正常高値血圧(収縮期血圧130mmHg以上かつ/または拡張期血圧85mmHg以上)を加えると、71名が典型的な生活習慣病およびメタボリックシンドローム予備軍と判定されている。