〔研究所情報〕
Neural Regeneration研究室の紹介
研究所運動機能系障害研究部 Neural Regeneration研究室
室長・主任研究官 緒方 徹



 この研究室は脊髄損傷治療の開発を目指し、遺伝子治療や細胞治療といった再生医療技術を活かした研究ユニットを国リハ内に設置する目的で平成16年に設置されました。初代室長の山本真一先生に続いて私が平成19年春より室長を務めています。

 「脊髄損傷」「再生医療」となると、現在一番の話題は「細胞移植」ではないでしょうか。既にヨーロッパの一部や中国では実際の臨床現場で脊髄損傷患者に対する移植治療が行われており、国内でも臨床試験を計画している大学病院があります。したがって、脊髄損傷の研究というと細胞移植をしないと時流に乗れない感すらあります。そうした中で我々の研究室では、あえて細胞移植にこだわらず脊髄に内在する細胞に着目しています。脊髄は損傷すると治らない、というのが通説ではありますが、詳しく調べると損傷をうけた脊髄の中ではグリア細胞という神経を補助する細胞が旺盛に増殖しており、僅かではありますが自己修復機能が働いていることが最近の知見でわかってきました。したがってこの「内なる治癒力」を詳しく調べ、それをさらに強める工夫をすることで脊髄損傷治療に近づこうというのが基本姿勢です。

 さまざまな疾患について言えることですが、一つの方法で完全にその疾患をコントロールすることは通常できません。いくつかの手法が組み合わされ、最適化され、それでもまだ新しい問題点が浮かび上がり治療法を修正していく、治療法の開発は一般にそのような歴史をたどるものと私は考えます。脊髄損傷もおそらく細胞移植あるいは我々のテーマにしている内在性細胞のいずれも単独では決定打とはならないでしょう。したがって今大事なのは、長く続くであろう脊髄損傷治療研究の土台となるべき知見を築いていくことではないかと思います。その意味で、損傷脊髄で何が起きているのか、細胞・遺伝子レベルでどうなっているのかを最新の生物学の技術を駆使して明らかにすることが必要なのです。

 私自身は整形外科医として臨床現場で脊髄損傷に対する治療手段の限界を感じたのがきっかけで、この研究分野に携わるようになりました。したがって、一日も早く臨床現場に応用できる研究成果を出したい気持ちは強く持っています。しかし、National Centerである国リハでこの研究を行う意義を考えると、粘り強く息の長い研究体制も欠かせないものです。今後、国リハという「地の利」を活かして他部門の研究室あるいは病院等と連携する方向で研究を発展させていくことができれば何よりと思いますので、皆様からのご提案ご指導をいただければ幸いです。



(写真1)研究室メンバー(前列右が筆者)

(写真1)研究室メンバー(前列右が筆者)


(写真2)中枢神経グリア細胞の単離培養像

(写真2)中枢神経グリア細胞の単離培養像