〔ワンポイントマッサージシリーズ18〕
〜東洋の経験と知恵を活かして健やかな毎日を〜
更生訓練所理療教育部主任教官 柳澤 春樹


18.「血圧が低い(低血圧)」

 今回は「血圧が低い(低血圧)」を取り上げてみましょう。

 前回取り上げた高血圧と比べて「血圧が低い」という場合はあまり問題にされないことが多いのですが、その症状は多彩で不定愁訴として現れることも多く、他人にうまく理解されない場合などもあって、なかなかつらいものです。

 低血圧症とは、一般に成人では収縮期血圧(最高血圧)が100mmHg未満をいうことが多く、まったく症状がない人から、立ちくらみ、めまい、失神、全身倦怠感(だるさ)、肩こり、朝方どうしてもしっかりと起きられない。手足が冷えるなどの症状を訴える方までさまざまです。このような場合には、しっかりとした管理が必要なこともあります。

 低血圧症では、安静時にすでに血圧が低い場合や、立位を維持している時や体位変換時、とくに臥位(寝た状態)や座位から立ち上がった時に血圧が下がる場合があり、原因疾患と体位との関係が重要です。


 一般に低血圧症では、原因となる病気は認められず、原因疾患が明らかでない場合は、本態性低血圧症と呼ばれています。

 一方、原因となる病気が認められる場合は症候性(二次性)低血圧症といわれ、起立に伴って認められる場合は起立性低血圧として分類されています。起立性低血圧についてはこのシリーズ16の「めまい、立ちくらみ」でもご紹介しました。

 症状の現れ方から急性と慢性とに分けられます。急性低血圧症が、ショックや急性の循環不全を示すような急激な症状が現れるのに対し、慢性低血圧症は急性低血圧症のように激しい症状を示さずに、症状がゆっくりと現れ、持続します。

 急性低血圧症は慢性血圧性症に比べると重症であることが多く、ほとんどの患者さんでは救急処置が必要になりますので、ここでは慢性のものについてのみ述べます。

 本態性低血圧症は慢性低血圧症を示すため、症状は持続的であるのに対し、症候性低血圧症は原因疾患の違いにより急性または慢性の症状発現を示します。一方、起立性低血圧症では体位の変換に伴い急性に症状が現れます。


 以下にお示しするような簡単な方法でも、症状が軽快することがありますので、上記のような症状で血圧を測定してみて低血圧ぎみだと思う方はお試しください。






 1.椅子に座って行えます。第5胸椎棘突起の外方で指2本文のところで、肩甲骨内縁の半分よりやや下方にある部位(図1)を反対側の中指を当て、肘をやや上に持ち上げるようにしながら指圧します。1,2,3で息をはきながら力を加えて指圧してゆき、4,5,6で息を抜きながら力を抜きます。これを5・6回繰り返したら反対側にも行います。

 五十肩などで型が痛いと指が届きませんので、そんなときは仰向けになってテニスボールなどを使って指圧の代わりにすることもできます。

 (心兪「しんゆ」)(図1)



(図1)心兪「しんゆ」





 2.やはり椅子に座って行えます。胸骨の真ん中で第4肋間(ほぼ両乳頭のたかさ)に中指を重ねて置き指圧します。1,2,3で息を吸いながら力を入れ、体をそらせてゆきます。4,5,6で息を吐きながら力を抜いて、もとに戻ります。これを5・6回くりかえします。

 (?中「だんちゅう」)(図2)



(図2)?中「だんちゅう」





 3.椅子に座っても行えますが、正座して行ったほうが効果的です。下腹の真ん中で臍の下、指4本分のところに両手の指の腹を当てて、1,2,3,4,5と、ゆっくりと押しながら揉んでみましょう。昔から右回りにするのがよいと言われています。

 (関元「かんげん」)(図3)



(図3)関元「かんげん」


 東洋療法の興味深いことは、治療することによって自ら治ろうとする力を助けるという考え方で進められることです。そのため、血圧が高い場合はそれを下げ、低い場合は上げてゆくのを助けるのです。

 また、いろいろなツボ(経穴など)はある特定の疾患や症状に対してのみ使われるのではなく、その状況によってさまざまに使いわけられているのです。このシリーズでも何度かご紹介したものがあるのもそのためです。例えば、ここにご紹介した?中(だんちゅう)などは古来より「慢性の神経の病気によい」とも伝えられているのです。

 症候性低血圧症の場合は、当然原因疾患の治療が優先されます。

 一方、原因疾患が認められない本態性低血圧症の場合は、バランスの良い食事、適度な運動、規則正しい生活リズムを取り戻すなどの生活態度の改善が欠かせません。

 それでも症状が改善しないという場合は精密検査が必要な場合もありますので、必ず専門医(内科、循環器科など)にご相談ください。