〔研究所情報〕
「視覚障害者が快適に学習する環境を目指して」
 国立更生援護施設理療教育課程5センターと
研究所の共同研究成果報告会、開かれる
研究所障害福祉研究部 我澤賢之



 去る3月8日、東京国際交流会館メディアホールにて研究成果報告会「視覚障害者が快適に学習する環境を目指して」が開催されました。この報告会は、平成17年度から3年間、厚生労働科学研究費補助金のプロジェクト「マルチメディアを活用した視覚障害者用教育訓練支援システムの研究開発」として進めてきました国立更生援護施設理療教育課程5センター(国立函館視力障害センター、国立塩原視力障害センター、国リハ理療教育部、国立神戸視力障害センター、国立福岡視力障害センター(以下各センター))と国リハ研究所の共同研究の成果を報告するものです。
 この共同研究の目的は、音声、墨字、画像、点字などを組み合わせたマルチメディアを活用して視覚障害者に対するリハビリテーションの教育訓練モデルを研究し、理療教育の向上と視覚障害者の職域拡大に資する教育訓練支援システムのプロトタイプの開発をめざすことでした。アクセシブルに構築されたマルチメディア版文書は、墨字を必要に応じ大きさを調整して読む、音声で読む、音声で読みつつ途中墨字の形状や図を確認する、点字で読むなど、さまざまな読み方のなかから読み手が自分にあった方法を選んで読むことができます。
 音声による教科書等教材利用については、平成16年度時点でマルチメディア版文書の国際標準規格DAISY(デイジー Digital Accessible Information System)での録音・再生の双方に対応した読書機が日常生活用具に指定され、利用しやすくなってはいました。しかし、理療教育課程の利用者には成人後に弱視になった方が多く、その教育訓練支援のためには墨字を読み書きした経験を最大限に生かせるよう墨字・画像をよりよく活用していく方法を明らかにすることが重要だという問題意識により、このプロジェクトは始まりました。各センターでは利用者にも協力をいただき、研究を進めて参りました。
 報告会は、国リハ理療教育部 田村一部長の挨拶ならびに研究の目的・背景の説明と、それにつづく午前の研究報告の部、午後のワークショップの部とで構成されていました。研究報告の部の前半では、視覚障害者の情報機器を活用した学習環境に関して各センターの教官ならびに研究所研究員から報告されました。本研究では、情報技術を活用し自分に適した学習スタイルを確立した視覚障害のある学習者の「サクセスモデル」を想定し研究を進めてきました。報告では学習者がサクセスモデルに到達するにはどのような技術を身につける必要があるか、それにはどのような支援が必要かについて、塩原センターでのおこなわれた希望利用者を対象とした情報技術活用に関する実験的講習(短期プログラム)、函館センターのパソコン教育での実践や、各センターで利用者を対象とした調査、韓国・米国の状況調査を踏まえて示されました。報告により情報技術活用のスキルの習得が視覚障害者にとって学習技術、学習意欲、自己概念(自己の信念体系)の向上に有用であること、視覚障害者の学習上PC利用環境などの設備や人的な支援が重要であること、視覚障害のある学習者にとってマルチメディアDAISY版教科書の提供が重要であることが確認されました。
 研究報告の後半では教材提供環境について報告されました。マルチメディア教材の提供を実用的におこなう簡便な方法や、色覚面の配慮、そのほかDAISY図書を読む上で問題点について塩原センター、国リハ理療教育部の教官から報告されました。そのなかでTTS(テキスト読み上げ)エンジンと連動した、ワープロソフトからDAISY図書への文書変換ツールの利用により簡便にDAISY図書を作ることができること、東洋医学用語など専門分野に対応した音声読み上げソフト用読み辞書を簡便に利用できることが重要であることが指摘されました。
 午後は「快適環境を考える―サクセスモデルを目指して―」という題でワークショップが開かれました。まず音声読み上げソフトによる読み上げの比較デモ、DAISY規格の開発とTTSの連携の動向、点字環境でのDAISY図書読書環境についてのプレゼンテーションがおこなわれ、その後これまでの議論を踏まえたパネルディスカッションに移りました。司会を主任研究者でもある河村宏国リハ研究所特別研究員、助言者を静岡県立大学 石川准教授がつとめ、パネリストとして田村理療教育部長、塩原センター教官であり視覚障害者である小林好彦教官、マルチメディアDAISY版教科書の原著者である田中千章氏、そのほか音声読み上げソフト、点字ディスプレイ、読書機等のメーカー((株)アメディア、KGS(株)、(株)高知システム、シナノケンシ(株))の方々のご参加の下、視覚障害のある学習者のニーズに技術がどう応えていくかについて議論がおこなわれました。
そして、図を含む教科書を提供する上でDAISYが重要であること、各社の提供するスクリーンリーダー・TTSエンジンで共通に利用できる専門別読み辞書や文章に応じて使用する専門別読み辞書を自動判別しより正確に読む仕組みの開発が重要であること、それらの開発を業界が共同して進めるためのコーディネートを例えば国リハのような国の機関が進めるのがよいのでは、といった意見が出されました。
 会場には約70名の参加者が来場し、報告・議論に聞き入っておられました。今後、本研究の成果を実際の視覚障害のある学習者に広く還元するための取り組みが求められると思います。


(写真1)共同研究成果報告会



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