〔巻頭言〕
視覚障害者が幸せに暮らすために
第三機能回復訓練部長 仲泊 聡



 地球温暖化を肌で感じる季節になりました。どうなってしまうんだろうと毎年思いつつもどうにもならない自分がいて、ただ日々の生活に追われ半世紀が過ぎようとしています。私は、視覚障害を持った患者さんと頻繁に関わるようになって12年が過ぎたところで、本年2月にセンターに民間から就任しました。これまでは、いつも患者さんの傍らにいて、行政や社会を敵に回した立場で、ことあるたびに患者さんの不遇をシステムのせいにしてきました。それが、巡り巡って自分がそのシステム整備に重要な役割をもつ立場になってしまったわけです。
 ロービジョンを含め、視覚に問題が生じた場合、ケースごとに問題点がかなり異なり、その分きめ細やかなサポートが必要です。しかし、数的にはマイノリティなので、制度の中で見過ごされてしまわないかと心配です。「視覚による情報収集が全感覚の80%以上である」という表現は言い尽くされた感があります。しかし、その重大な障害を有する視覚障害者にとって現行のシステムが最良のものであるかどうかについては、常に繰り返し検討していかなければなりません。
 当センターには5つの到達目標があります。これらの実現で、必ずや視覚障害者にとってもより幸せに暮らせるようになるものと信じます。そこで、この到達目標に向かって、今、私達に何ができるのかを考えてみたいと思います。

① 少子高齢社会に対応する国立身体障害者リハビリテーションセンター
  幼児ロービジョンケアは、少子化が進む今日においても重要課題です。高齢出産に伴う重複障害児の出生が増加しています。特別支援学校と連携を取りつつ対応していきます。ロービジョン児の就学・学習相談も当科では以前から受けています。これからは、加えて発達障害児の視機能評価や支援にも力を注ぎます。就労支援が、これまでのロービジョンケアの核であり、これからも最重要課題であることに変わりはありません。しかし、数的にはむしろ高齢者への対応が年々増加してきています。キーワードは「生き甲斐」です。そしてさらに脳血管障害などに伴う高次脳機能障害としての視覚認知機能障害への対応も可能にします。

② 先進的リハビリテーション医療実践、政策福祉推進の中核的機関
  究極のロービジョンケアはいうまでもなく「失明の治療」です。科学の進歩に伴っていままで不可能と思われていたことがどんどん可能になってきています。失明の治療に関わる先端医療情報にアンテナを張りつつ、ITを駆使したロービジョンエイドを率先して導入し、その評価・訓練を積極的に行います。そして、機能回復の観点のみならず、環境整備に関わる政策福祉を推進するためのデータも調査研究します。

③ 研究・開発、実践・検証、人材育成、関連情報発信の統合型機関
  当センターの研究・開発部門に研究所研究員(併任)として、とくに失明の治療に関わる研究に積極的に参加します。また、人材育成として視能訓練士と眼科医師の育成に協力します。現在、視能訓練士養成コースを有する3つの大学と慈恵医大医学部の学生実習に協力し、ロービジョンケアの重要性を啓蒙しています。学院の視覚障害学科の授業を担当します。視覚障害者の幸福には全国の眼科医の意識改革が必須であるという前任簗島先生の思想を継承します。学院で行なわれる医師研修会に協力するとともに、これからはさらにこちらから出向いて行っての啓蒙活動が不可欠と考えます。

④ 社会生活を支える保険、医療、福祉、労働サービスモデルの確立と一体的提供
  統合的視覚障害支援サービスモデルを構築することが、当センターでこそできる仕事です。300年以上の歴史を有するわが国特有の三療主体の視覚障害者支援システムが、今、変わろうとしています。パソコンが視覚障害者の情報障害を克服し、他業種への参加可能性を飛躍的に上げています。これにより、今までのモデルでは解決できなかったものが今後解決できる局面が出てくるものと予想します。これを見据え、これからの統合的視覚障害者支援サービスとは何かを考えます。

⑤ 戦略的運営体制による効率的な事業展開
  以上のような事業をすべて私一人ですることはできません。センターの中には優秀な人材が大勢います。そして、センターの外にいる多くの同志とも手を携えて包括的に進めます。全ての事業は手当り次第に進めるのではなく、計画的に効率を考えながら進めます。

 私は、まさにこういうことがしたくてここに参りました。定年までまだ16年あります。これまでに築いてきた人とのつながりを大切にし、そして新たに認め合う人間関係を構築し、以上の目標に向かって頑張ります。皆様よろしくお願い申し上げます。