〔巻頭言〕
北京オリンピック雑感
研究所企画調整官 千葉 一也



 原稿の締め切りがちょうど北京オリンピックが終わった直後である。オリンピックと言えば4年に一度の世界のお祭りだ。ここは、オリンピックから話題を拾って述べてみたいと思う。
 まずは日本選手団の競技結果について、期待にこたえた選手、期待以上に頑張った選手は、賞賛を受けるからよいが、期待にそえなかった場合は、やはり要因などを分析し次回以降に生かしてほしいと思う。このことはスポーツ以外でも同じで、失敗から学ぶ姿勢は重要だと思う。
 次に特に強烈だったのが陸上である。男子短距離走のボルト選手にはもう驚愕という感想しかない。100m、200m、リレーの三冠も快挙であろうが、その記録は驚異的と言うしかない。人間の能力というものを大きく一歩進めたといっても過言でないであろう。それにしても、このような記録を残せるのは、たぐいまれな才能と人一倍の努力のたまものであろうが、オリンピックの決勝の場でその極限までの力を発揮できるのは、これも素晴らしい能力である。彼の決勝戦前の非常にリラックスした様子がとても印象的であった。
 次に日本人選手のことについてだが、何といっても競泳の北島選手の連続二冠達成が素晴らしい。競泳平泳ぎにおいて100m、200mの二冠自体北島選手が初めて達成したものであり、それを2回のオリンピックにおいて連続して達成したのであるから、これはもう世界的な快挙と言っても決して過言ではないだろう。決勝後のインタビューにおいて、涙ですぐに言葉でない様子が印象深かった。前回のアテネオリンピックの時は、喜びを素直に表し「超気持ちいい」が流行語になったほどであるが、今回は違っていた。勝利を期待される重圧、4年の間には不調やけがの時もあったようだ。それらのことを乗り越えての勝利である。彼自身快挙を達成しただけではなく、人間的にも大きく成長したのではないだろうか。
 さて、競泳と言えば今回のオリンピックでは、英国スピード社製の新しい水着レーザー・レーサー(LR)が大会前から大きな話題となっていた。従来に比べて抜群に良い記録が連発して出たからである。そして結果はと言うと、新聞報道によれば、延べ25個の世界新記録が樹立されたが、これは前回のアテネオリンピックの3倍以上であり、かなり多いといえるようだ。このうちリレーを除く個人種目で19個が世界新だったが、LR着用者による達成が17個を占めたという。このことからも確かにLRは従来の水着に比べ相当性能がよいと言えるようだ。確かに泳ぐのは人間でありLRを着用したからといって誰でも記録が飛躍的に伸びるものではないだろう。しかし、世界レベルでトップクラスの実力が拮抗している中では、一つ頭が抜け出るくらいの影響があったのではないだろうか。従来からも水着の改良は不断なく続けられており、その性能も進歩してきた。しかしLRは従来の改良の延長線上をはるかに超えたものだったのである。つまり技術上ブレイクスルーを起こしたといえよう。このようなことは時として起こるが、それまでの世界観を一変させたり、新たな地平が開けたりするなどその後全く異なった展開が繰り広げられることがある。LRもさらに改良が加えられることであろう。そしてその先にはどのような記録が生まれるのであろうか。
ひるがえって、われわれの仕事の上では、ブレイクスルーなどはめったにおこるものではない。しかし、行き詰ったように見えてもあきらめず、全く違った角度から試みるなど努力を惜しまない姿勢は必要であろう。
 様々な物語を残し、北京オリンピックは閉幕したが、4年後のロンドンオリンピックではどのような物語が待っているのだろうか。