〔センター行事〕
職員研修会
江草安彦 社会福祉法人旭川荘名誉理事長・荘長講演会
更生訓練所長 江藤文夫



 本年度第1回の職員研修会は、去る7月10日(木)午後、本館大会議室で社会福祉法人旭川荘名誉理事長・荘長の江草安彦先生をお迎えして開催されました。
 初めに岩谷総長より江草先生のご略歴の紹介がありました。江草先生は大正15年(1926年)のお生まれで、昭和25年に岡山医科大学付属医科専門部(現岡山大学医学部)をご卒業になられ、翌年より岡山大学小児科学教室に勤務されました。昭和31年には総合医療福祉施設旭川荘の創設に参加され、昭和60年に同理事長に就任され、本年度より名誉理事長になられました。この間に平成3年から15年まで川崎医療福祉大学初代学長をお勤めになりました。また、中央児童社会福祉審議会委員長、中央社会福祉審議会委員、中央障害者施策推進協議会会長などを歴任され、授賞も数多く、昭和56年には内閣総理大臣表彰、昭和63年には藍綬褒章受章、平成12年には日本医師会最高優功章受章、平成18年には瑞宝重光章を受章されました。
 研修会でのご講演は「障害者福祉50年」と題して、医学部を卒業して小児科医となって以来、障害者福祉の事業に従事してこられた間の様々な人々との出会い、エピソードを交えて障害のある人々と接する職員の心構えとありようについてお話しくださいました。 最初に、当センターを訪問するのは2度目で、前回はセンターの創立20周年記念式典に中央障害者施策推進協議会会長として招待され、来賓として祝辞を述べたことから始められ、当時もセンターの緑はすばらしいものであったが、今回は一段と緑が豊富になっていることを賞賛されました。
岡山大学の小児科医となられた江草先生は、教授から多発性奇形や先天性神経疾患のお子さんを診療するよう指示されました。今日でも根本的な治療法の確立されていない疾患を多く含む領域です。しかし、医者として「治らない」「お世話のしようがない」とは言い難く、遠く四国から来院される家族も稀でなく、帰りの連絡船から身を投げたりしないかと不安を感じることもありましたと述懐されています。こうした経験から障害者福祉の世界に踏み込まれましたが、その後の活動を展開する上で当時神奈川県立芹香院という精神病院の院長で、知的障害者の施設であるひばりが丘学園の創立に尽力された菅修氏との出会いを印象深く語られました。知的障害者への取り組みが試行錯誤の時代に、その後国立秩父学園の初代園長、国立コロニーのぞみの園の初代理事長を務めた菅修氏から学ぶことが多かったということです。他にも大切な出会いとして滋賀の近江学園園長の糸賀一雄氏、京都の桃陽学園園長の杉山茂氏、かつて小児結核を専門としていた評論家の松田道雄氏といった先生方のお名前もあげられました。
 岡山大学小児科では早々に講師になられましたが、教授より外部の病院の小児科部長を薦められた時には、福祉施設をやりたいといって辞退すると、教授は外科医の川崎祐宣氏を紹介し、川崎氏は岡山県知事の三木行治氏を紹介しました。こうした経緯で、岡山県から7万坪の土地が無償で提供され、川崎氏からは中国銀行からの融資で1億円の通帳が手渡されたそうです。さらに県からの紹介で、鹿児島大学から整形外科の助教授をしていた堀川龍一氏を迎え、昭和32年4月に肢体不自由児施設「旭川療育園」、知的障害施設「旭川学園」、乳児施設「旭川乳児院」の3つの施設からなる旭川荘が発足しました。現在の利用者数およそ3000人、職員数約2000人という日本有数の社会福祉法人の開設時のエピソードです。
 以来50年、日本の障害者福祉も大きく変化してきました。福祉の質はともかく、形は整ってきました。特に措置の時代から、支援費制度が導入されたものの義務的予算でなかったことから予算の不足を便法で対応していたことが、障害者自立支援法の施行によって予算化されるに至ったことは大いに評価すべきことです。今後解決を必要とする問題点も少なくない中で、理念的な側面とも関連する自立の定義が明確でないことを問題点の1つとして指摘されました。全国に重症心身障害をもつ児は約4万人いますが、その2/3は歩くことができません。自立は、その人がその人らしく幸せに暮らすことで、能力だけではなく「生きていることの意味を本人が感じ、周囲の人も感じられること」であると述べられました。
こうした障害者問題の基本について、二人の重要人物との出会いを紹介されました。一人はデンマークのバンク‐ミケルセン氏で、1950年代に「ノーマライゼーション」を提唱しました。もう一人がカナダ生まれでフランスに暮らすジャン・バニエ氏です。二人ともコミュニティにおける自立と共生を推進する活動を展開しましたが、ジャン・バニエ氏との出会いからは大きなインパクトを受けたと述べられています。彼が精神障害者と暮らすパリ郊外のトローリー村を訪ね、1週間滞在した時の体験を通して、その人となりについて詳しく話されました。精神障害、知的障害、健常者がともに暮らす共同体での生活から得た大切な感慨として、「障害者とともに暮らすことに喜びを感じること、よく生きるとは幸せと感じられること」であると述べられました。
 最後に、障害者福祉の人材養成にも長年関ってこられたことに触れられ、専門職の重要性は当然として同時に、医療と福祉は連続性をもつことから「何でもこなす人材」が必要であることも強調されました。
 大正生まれとは到底想像もできない外見を保ち、豊富な体験をもとに医療と福祉の場で仕事をする者の心構えと接し方について熱く語り、私どもに多大な感銘を与えた江草先生に心より感謝いたすとともに、ますますのご活躍をお願いして研修会報告の結びと致します。

 

(写真)社会福祉法人旭川荘名誉理事長・荘長の江草安彦先生の公演