〔学院情報〕

手話通訳士専門研修会を終えて

学院手話通訳学科教官 市田泰弘

 

 

 9月1日〜5日までの5日間の日程で、手話通訳士専門研修会を実施しましたので報告いたします。
 本研修会は、厚生労働大臣公認手話通訳士試験の合格者で現に手話通訳業務に従事している者を対象とし、さらなる技術・知識の向上に寄与することを目的として実施しています。手話通訳士試験がスタートしたのは平成元年ですが、翌年の平成2年度には研修会をスタートさせ、今回が19回目です。これまで340名が受講・修了し、今年の研修には30名が参加しました。
 今回の研修会のプログラムは、ここ数年の方針に従い、次の2つの柱を軸に編成しました。
(1)全国初の手話通訳養成専門機関として、本学院手話通訳学科が19年間にわたって蓄積してきたノウハウについて、各地域において手話通訳業務の中で指導的立場にある手話通訳士の方々に体験的に習得する機会を提供し、個々の技術・知識の向上を図るとともに、地域への還元をめざす。
(2)聴覚障害者や手話通訳をめぐる社会的動向の中で、近年もっとも注目されている問題について、最新の議論を提供し、考察を深める。
 (1)については、近年、民間において同種の研修会が実施されていることに鑑み、本センターが実施する研修会の独自性を打ち出すねらいがあります。授業の形態としては、本学院手話通訳学科における通訳指導の最新の実践とそれを支える理論について、実技授業への参加を通して体験的に学習していただくという形を中心に据えています。具体的には、ネイティブの講師陣による「日本語から手話への翻訳(短文/長文)」「手話文の暗唱」「コミュニケーション・ストラテジーの向上」「身体表現論的側面」、聴者の講師による「手話から日本語への同時通訳(基本/応用)」「日本語と手話の対照分析と翻訳」といった実技科目と、それらの実技を支える理論としての「手話言語学」「ろう者の社会と文化」などの講義科目からなります(実技科目については、その指導技術について担当講師とディスカッションする時間を別に設けました)。さらに、それらに加えて、場面別の実技として、「裁判員裁判を題材にした模擬通訳」と「政見放送における手話通訳」を用意しました(後者については、日ごろより学科の実技授業にご協力いただいている日本手話通訳士協会の協力をいただきました)。
 (2)については、今年度は「障害者権利条約」「裁判員制度」「就労支援」をテーマに取り上げました。「権利条約」は東京都中途失聴・難聴者協会理事長の高岡正氏、「裁判員制度」は自身もろう者である弁護士、田門浩氏、「就労支援」は日本手話通訳士協会会長小椋英子氏に講師をお願いしました。いずれも内容の濃い、充実した講義でした。
 今回のプログラム編成全般に関しては、受講者から高い評価をいただきました。講義内容についても、「とても密度の濃い、すばらしい講義ばかりでした」「先生方の言葉ひとつひとつがとても納得できるものでした」といった声が寄せられました。ただ、実技科目については、細分化された一つ一つのコマの時間が短すぎ、未消化の感があるとの指摘を多くいただきました。また、事前課題の出し方や授業でのフォローの方法など、今後考慮すべき点に関して、さまざまな意見を頂戴しました(以上、受講者アンケートによる)。それらの貴重な意見をふまえながら、来年度以降も、さらに充実した研修会を実施していきたいと考えています。

 

(写真1)手話通訳士専門研修会1

 

(写真2)手話通訳士専門研修会2

 

(写真3)手話通訳士専門研修会3

 

平成20年度 手話通訳士専門研修会日程表

 

 

        午   前

         午   後

9月1日(月) 開講式・ガイダンス (10:00〜10:30)

① 手話通訳実技 Ⅰ (10:30〜12:00)
国立身体障害者リハビリテーションセンター
学院教官  木村晴美
学院教官 市田泰弘
② 手話言語学  (13:00〜17:00)
国立身体障害者リハビリテーションセンター
学院教官  市田泰弘
2日(火) ③ ろう者の社会と文化  ( 9:00〜10:00)
国立身体障害者リハビリテーションセンター
学院教官 小薗江 聡

④ 裁判員制度とろう者 (10:10〜12:10)
弁護士 田 門  浩
⑤ 手話通訳実技 Ⅱ(13:00〜17:00)
国立身体障害者リハビリテーションセンター
学院非常勤講師  数見陽子
学院教官  市田泰弘
学院教官  木村晴美
3日(水)

⑥ 対照分析・翻訳 ( 9:00〜10:00)
国立身体障害者リハビリテーションセンター
学院教官 市田泰弘

⑦ 障害者権利条約と聴覚障害者  (10:10〜12:10)
東京都中途失聴・難聴者協会
理事長 高岡 正
⑧ 手話通訳実技 Ⅲ (13:00〜17:00)
東京家政大学 非常勤講師  海野和子
国立身体障害者リハビリテーションセンター
学院教官 木村晴美
学院教官 宮澤典子

 

4日(木) ⑨ 政見放送における手話通訳 ( 9:00〜12:00)
日本手話通訳士協会 理事 山田京子
⑩ 手話通訳実技 Ⅳ (13:00〜17:00)
NHK手話ニュースキャスター  河合祐三子
東京家政大学 非常勤講師    越後節子
国立身体障害者リハビリテーションセンター
学院教官    小薗江 聡
5日(金) ⑪ 手話通訳実技 Ⅴ( 9:00〜12:00)
国立身体障害者リハビリテーションセンター
学院教官   宮澤典子
⑫ 聴覚障害者の就労について(13:00〜16:00)
─聴覚障害者ワークライフ支援事業を通して─
日本手話通訳士協会 会長    小椋英子

閉講式 (16:00〜16:15)

 

 

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