〔学院情報〕

平成20年度 義肢装具士靴型装具専門職員研修会を終えて

学院 義肢装具学科 有薗裕樹

 

 

 去る8月18日(月曜日)〜21日(木曜日)の4日間にわたり、義肢装具士養成棟において「義肢装具士靴型装具専門職員研修会(製靴コース)」が開催されました。
 靴型装具とは市販の靴とは違い、「医師の処方に基づき、変形の矯正、とう痛のない圧力分散などの特定の目的のために特定の患者の足部に適合させた靴;JIS用語」のことで、その採型、適合には義肢装具士が関与します。
 本研修会は適合コースと製靴コースから構成され、各コースを隔年で開催しています。簡単に各コースの内容について説明します。適合コースは実際のモデル被験者の足をギプスで採型して、木型(足型)を製作します。その木型を用いて、チェック用の靴型装具を簡易的にプラスチックで製作し、仮合せまでを行います(図1)。製靴コースは実際の靴に用いられる皮革やスポンジなどの材料や靴型装具に用いられる特殊部品を用いて、実際の使用に耐えうる強度をもった靴型装具の製作技術を学ぶもので、今年はこの製靴コースが開催されました。
 今回の研修会には全国から11名の受講生が集まりました。受講生の半数は日常の業務で靴型装具の製作・適合に従事している人達ですが、中にはこれから新たに靴型装具の分野を会社に取り入れようとする人や義肢装具士養成校の教員も参加し、靴型装具に対する関心の深さが伺えました。また、比較的経験年数の浅い人が多く参加し、就職して3年以内の受講生が半数以上を占めていました。そのためか日頃の業務で疑問を抱いていることも多いようで、研修期間中の質疑応答も活発に行われ、知識と技術を吸収しようとする姿勢が感じられました。
 今回の研修会プログラムは別表のとおりです。研修会初日、二日目の内容は靴型装具のデザインを考え、甲革を製作することがメインとなります。甲革は読んで字の如く、足の甲にくる革のことであり、靴の見た目に大きく関わる部分です。そのため色合いを含めた革の選択やステッチ(ミシン目)といったデザインは見た目を大きく左右します(図2)。また、甲革の製作には革の裁断や縫製作業など繊細な作業が求められ、受講生は集中して作業に取組んでいました。
 三日目は甲革を木型に沿わせていく工程(吊り込み)です。この工程により今まで平面的でしかなかったものが、靴としての立体的な形を成してきます(図3)。研修会前半の2日間は細かい作業が多く疲れがピークに達している中で、この作業によって靴を作っているという実感が湧いてきたのか、初めて靴を製作する受講生にとっては靴作りの面白さ、興味深さを感じながら作業をしているように思われました。
 最終日はデモンストレーションのみとなりますが、今回製作した靴型装具をモデル被験者に履いてもらい、最終チェックが行われました。モデル被験者の主観的意見を聞きながら、立っている時の安定性や歩きやすさについて経験豊富な講師による最終チェックが進められていきました。
 本研修会を通じて受講生は靴型装具のトータル的なデザインの重要性を感じたのではないかと思います。靴型装具は市販の靴とは違い、使用者に必要とされる機能や適合が重要であるのは当然ですが、そのことばかりに目を奪われてしまうと使用してもらえないものになってしまいます。見た目のファッション性という要素も考慮し、使用者が満足して快く履いてもらえるようにデザインを考えていくことも重要だと感じた研修会になったのではないでしょうか。
 平成6年度から開催されたこの研修会も15年を経過し、今回の受講生11名を含めて全国的に延べ150名を超える受講生が修了しています。研修会を修了した人の中には、靴型装具について指導する立場となっている人も出てきています。本研修会が少しでも靴型装具の技術的な底上げに繋がればよいと思っています。
 最後に、本研修会にご尽力いただいた講師・関係職員の皆様方にこの場をお借りして厚く御礼申し上げます。
 

 

(写真1) 木型(上)とチェックシューズ(下)

図1 木型(上)とチェックシューズ(下)

(写真2) 甲革のデザイン

図2 甲革のデザイン

(写真3) 吊り込み工程

図3 吊り込み工程

 

平成20年度 義肢装具士靴型装具専門職員研修会(製靴コース)日程表

 

日付
午前
午後
8月18日
(月曜日)
・受付 9:30〜 9:50

・開講式・オリエンテーション (10:00〜10:15)

① 講義 木型選択と靴型装具のデザイン決定
実技 フットベッドの製作技術 (10:15〜12:15)
川村義肢株式会社 営業部 主席技師
                  真殿 浩之
国立身体障害者リハビリテーションセンター
学院 教官 有薗 裕樹
② 実技 フットベッドの製作 (13:00〜15:00)
川村義肢株式会社 営業部 主席技師
                  真殿 浩之
国立身体障害者リハビリテーションセンター
学院 教官 有薗 裕樹

③ 講義・実技 靴型装具デザインとカッティングパターン
(15:15〜18:00)
川村義肢株式会社 営業部 主席技師
                  真殿 浩之
国立身体障害者リハビリテーションセンター
学院 教官 有薗 裕樹
8月19日
(火曜日)
④ 講義・実技 製甲技術 (9:00〜12:00)

川村義肢株式会社 営業部 主席技師
                  真殿 浩之
神戸医療福祉専門学校三田校 義肢装具士科
                    猪狩 憲司
⑤ 実技 製甲,部品製作 (13:00〜18:00)
-カウンター,先芯-
川村義肢株式会社 営業部 主席技師
                  真殿 浩之
神戸医療福祉専門学校三田校 義肢装具士科
                    猪狩 憲司
8月20日
(水曜日)
⑥ 講義・実技 靴型装具製靴法 Ⅰ (9:00〜12:00)
-吊り込み-
川村義肢株式会社 営業部 主席技師
                  真殿 浩之
神戸医療福祉専門学校三田校 義肢装具士科
                    猪狩 憲司
⑦ 実技 靴型装具製靴法 Ⅱ (13:00〜18:00)
-細革,中もの,中底の取り付け方法-
川村義肢株式会社 営業部 主席技師
                  真殿 浩之
神戸医療福祉専門学校三田校 義肢装具士科
                    猪狩 憲司
8月21日
(木曜日)
⑧ 実技 靴型装具製靴法 Ⅲ (9:00〜12:00)
-本底付と仕上げ-
川村義肢株式会社 営業部 主席技師
                  真殿 浩之
国立身体障害者リハビリテーションセンター
学院 教官 有薗 裕樹
⑨ 靴型装具の材料学 (13:00〜14:00)
国立身体障害者リハビリテーションセンター
研究所 補装具製作部 中村 隆

⑩ 講義・実習 靴型装具適合学 (14:15〜16:15)
-デモンストレーション-
川村義肢株式会社 営業部 主席技師
                  真殿 浩之
国立身体障害者リハビリテーションセンター
学院 主任教官 高嶋 孝倫

・閉講式 (16:30〜16:45)

 

 

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