〔巻頭言〕
「堂々と生きる」
病院 医療相談開発部長 深津 玲子



 10月25日仙台国際センターにおいて、「高次脳機能障害者に対する地域支援ネットワークの構築に関する研究」の東北ブロックシンポジウムが開催されました。これは私どもセンターが中心となって進める、厚生労働科学研究こころの健康科学研究事業である高次脳機能障害支援普及のための研究事業の東北ブロックが主催しています。今回のシンポジウムは、「高次脳機能障害を生きる;この見えない障害の理解と支援にむけて」と題して、東北大学高次脳機能障害学教室、宮城県高次脳機能障害支援拠点機関である東北厚生年金病院および宮城県リハビリテーション支援センターが事務局となって、大変盛大に開催され、そして成功をおさめました。第1部で、私と山形大学高次脳機能障害学分野教授の鈴木匡子先生が高次脳機能障害についての理解と支援についてそれぞれ講演を行い、第2部で、山鳥重先生と医師でノンフィクションライターの山田規畝子先生の講演と対談が行われました。
 山鳥重先生についてはご存知の方も多いと思いますが、現在神戸学院大学教授で、前東北大学高次機能障害学教授です。日本の高次脳機能障害学の第1人者であった人です。ちなみに日本で最初に「高次機能障害学」という教室ができた大学が東北大学であり、山鳥先生はその初代教授です。山鳥先生がその東北大学に教授として迎えられるについては、あたかも「三顧の礼」のような逸話があるのですが、それはいずれかの機会に。
 山田規畝子先生は2004年「壊れた脳 生存する知」(講談社)という著作で話題になったノンフィクションライターです。ご自身が整形外科医師であり、もやもや病による脳出血、脳梗塞を3回発症、主として右頭頂葉に病巣があり、その後遺症をお持ちです。ご自分の高次脳機能障害としての症状を、医師としての冷静な目で書き綴った著作は大変貴重な記録と言えます。わたしはこの本が出てすぐに、何かの書評で見つけ、購入しました。購入した動機は、実は、めったに解説を書かない山鳥先生がその本の解説を書いていると言うことで関心を持ったのです。一気に読みました。なるほどそうか、と思いました。それまでも、薄々そうではないか、と思っていた高次脳機能障害の自覚的な側面が大変よくわかりました。患者さまはさまざまな訴えや症状で私たちに高次脳機能障害の側面を見せてくれますが、それは本人が感じている側面とは異なります。これまで私は自分の講演で、山田先生の著作を引用しており、今回始めてご本人にお会いし、親しくお話しできたことは大きな喜びでした。
 今回の講演で「最後に高次脳機能障害をもつ当事者の方にお話になりたいことがありますか?」と言う司会の質問に、山田先生は少しの間考え、そしておっしゃったのがこの巻頭言の副題、「もっと堂々と生きてほしい」でした。「お釈迦様は老、病、死はいかなる人も避けられないと言っています。その病を得たことを恥じているように見える人が多い。だからみなさんにもっと堂々と生きてほしい」。彼らに堂々と生きてもらうために、その身近にいる私たちはもっと彼らを、病を得て生還した勝者を、敬う必要がある、と強く感じました。
 10月1日付で当センターに移管された発達障害情報センターのセンター長を併任しました。発達障害をお持ちの青年で、それまでの成長の過程で多くの困難と直面し、結果として自己評価が低くなり、そのことによりまた生きる上での困難が生じている方が多いように感じます。彼らが「堂々と生きる」ための手助けは何か、今後も考えていきたいと思います。