〔国際協力情報〕
コロンビア報告
「地雷被災者を中心とした障害者総合リハビリテーション体制強化」
総長 岩谷 力



 2008年12月8日から22日の2週間にわたって、2月に引き続き再びコロンビアを訪問した。今回の訪問の目的は、本プロジェクトで共同で技術支援をするチリ国担当者と業務の分担範囲を明らかすること、コロンビアで実施されるリハビリテーション研修の課題を決めること、コロンビア国の取り組み体制を確認し、技術援助プログラムをスタートさせることであった。
 12月8日午後5時に成田を発って、ヒューストンを経由し約20時間弱の旅で、現地時間12月8日夜9時45分にボゴタに到着した。ボゴタは北緯5度くらいの熱帯の緯度に位置するが、標高2600mの高地にあり、夜の気温は10度以下となるため、日中は半袖で過ごし、朝夕には防寒具が必要となる。気候は季節の変化はなく、雨期と乾期がある。気温は一年中、日中20度、夜間7〜8度であって、冷暖房を備えた住宅はまれで、ホテルは暖房がない。冬の日本から行くと、暖房がない環境にあった服装を準備することが難しい。10月末から11月末くらいの気候にあった服装が適当な気候であったが、9月から10月くらいの衣類を用意していったため、寒い思いをすることが多かった。また、クリスマス前の時期で、公園や町の大通りの木々には賑やかにクリスマスの飾り付けがされて、夜となると人であふれかえっていた。南の国で雪がない中でのクリスマスキャロルには少々奇異な感じを抱いた。
 このプロジェクトは、コロンビア国内で反政府勢力が仕掛けた地雷により障害を負う民間人を救済するために、リハビリテーション体制を強化することを目的としている。地雷被災は、山岳地帯、農村地帯で発生し、年間約1000名の被災者があり、その6割が軍関係者、4割が民間人である。地雷被災から病院への搬送に時間がかかり、感染により損傷が拡大すること、地雷被災者への救済制度があるけれども、その制度について知る一般国民は少ないために、救済制度を利用する地雷被災者が少なく制度として機能していないこと、病院においてリハビリテーション医療体制が整備されていないこと、地域での障害者福祉システムが整備されていないことなどなどの問題点がある。中央政府は、反政府勢力への圧力をかけることに付随して生じる地雷被災者の救済を極めて重要な政策と位置づけている。
 このプロジェクトにおける支援目標は1.専門職人材の機能回復リハビリテーション治療技術の能力育成 2.リハビリテーション専門職チームが活用する文書の整備 3.地雷被災者のリハビリテーションサービスへのアクセシビリティの向上 4.地域における感染の低減、二次障害予防のための応急手当の知識の普及 の4つである。バジェ県カリ市(南西部の中心都市。標高800m)とアンティオキア県メデジン市(中央部の商業都市。標高1800m)において、県当局、大学病院、リハビリテーション科、地域活動を行うNGOがチームをつくってこの4つの活動に取り組む計画である。
 今回の訪問では、バジェ、アンティオキアの両県の担当者チームとの治療能力向上のための研修計画の検討ならびにリハビリテーション専門職チームが用いる文書の整備を受け持つチリ専門家との担当業務の調整をおこなった。チリは1995年からJICAの協力のもとに、障害者リハビリテーション医療システムをアップデートし、国の障害者の保健福祉政策に反映させている。この協力は、チリ国から高く評価され、チリ大統領がわが国の安倍首相に直接感謝を伝えたと報道されている。この協力に中心的な役割を果たしたのは私たちのセンターであり、チリの専門家と我々は極めて親密な関係を保っている。チリ専門家は、JCPP(Japan Chile Partnership Program)として、これまでにパラグアイ、コスタリカ、ボリビアの障害者リハビリテーションシステム構築に協力してきた実績がある。今回も、チリから4名の専門家が訪れ、3日にわたってコロンビア専門家の活動計画の作成を指導した。チリ専門家は保健省のエルナン・ソト氏、PAC病院のアルベルト・バルガス副院長とチリJICA事務所のスタッフ2名であった。ソト氏とバルガス副院長はわが国を訪れたこともあり、チリとわが国のプロジェクトにおいて中心的な役割を果たした人々で、日本の協力により得た知識と経験を持って、ラテンアメリカ諸国の障害者リハビリテーションの発展に積極的に協力している。毎年秋には、PAC病院で中南米諸国から研修生を受け入れてリハビリテーション研修会を開催し、リハビリテーション医療、障害者支援の普及に力を入れている。その研修事業は、JCPPとして日本が協力している。
 わが国の協力成果が中南米の発展に活かされている姿を接することができたことは、大変嬉しいことであった。
 このプロジェクトは、病院のリハビリテーション施設の能力開発に限定されたものではなく、外傷の初期ケア、医療チームの育成、障害者の地域リハビリテーションなど、地雷被災に関係する保健、医療、福祉の問題に行政、医療機関、NGOがチームとして取り組み仕組みを育てることを目的とした壮大な計画である。視覚障害者のリハビリテーション、POの能力開発、リハビリテーション関連職の教育、実習指導などに協力しつつ、わが国の保健医療福祉制度についても理解してもらうプログラムを予定している。

 

(写真1)ボゴダでクリスマスツリーを前にしてチリの専門家と
ボゴダでクリスマスツリーを前にしてチリの専門家と
(写真2)コロンビア担当者とJICAスタッフとの夕食会で
コロンビア担当者とJICAスタッフとの夕食会で