〔巻頭言〕
「フィッシュ」が泳ぎはじめた?
看護部長 横田美恵子

 


 平成20年10月、病院は病院医療機能評価の認定証をいただきました。受審の準備期間には膨大な作業に追われましたが、改めて病院の環境、自分達の職場を見なおす機会になりました。
 当病院は30年前の建物で設備的にはいろいろな課題もありますが、取り組みの中で感じたことは、物品など設備的な改善は比較的容易ですが、そこに働く人の意識・対応の変化は難しいことでした。忙しさを理由に利用者に対し上から目線になっていなかったか、仲間を大切にしているか、自分達が楽しんで仕事をしているのかなどを見直すと、慣れた業務をしている自分と自分達本位の考え方をしていたと感じました。慣れきった業務の継続は個人のやる気を無くし、やる気の低下は職場の雰囲気を沈滞させ、職場の周囲にも影響します。
 楽しく仕事をする、仲間を大切にする職場作りを考える中で「フィッシュ」哲学の存在を知りました。この「フィッシュ」は最近看護の雑誌でも取り上げられることが多くなっています。医療の現場全体が多忙で余裕がなくなっているためでしょうか。
 「フィッシュ」は米国のある会社がシアトルのパイク・プレイス魚市場で働く人たちが楽しげな雰囲気で働く姿にひかれ、何がそれをもたらしているのかその秘訣を探り職場の活性化に応用しようと、そのノウハウを伝えるビデオを作成しセミナーで使用して評判になり広く紹介されました。内容は4つの原理からなり、1.態度を選ぶ(今日の態度を選ぶのは自分次第。不機嫌かニコニコか)、2.遊ぶ(仕事にも楽しみを見出す)、3.人を喜ばせる(楽しい雰囲気で接する)、4.注意をむける(相手にしっかり自分の注意をむける「今」に注意をむける)というものです。
 成人は目覚めている時間の約75%を仕事に関連した活動に費やしていると言われます。仕事にいく準備から、仕事場に向かう、仕事をし、仕事について考える、終わった後にリラックスするまでと、仕事にそれだけの時間を使うのなら、そこに楽しみを見出して意義ある時間を過ごそうとする考え方はどうでしょうか。
 看護部は職場の活性化をめざして副看護師長が中心となって取り組み、各職場で「フィッシュ」について学び考えました。意識して「挨拶をする」「態度を選ぶポスターを皆が使う場所に表示する」、「お互いの良いところを認め合うカードを渡す」、「毎月標語を考えて毎朝読み上げる」、「名札に魚のシールを貼る」、「業務開始前に全員で円陣を組み、リーダーが中心となり手をかざし掛け声をかける」等を各フロアが工夫をして活動しその結果、お互いへの声かけが多くなった、意識が変化した、団結感がでてきた、笑顔が多くなったなどの変化が報告されました。また、職員内にとどまらず、病院を利用される方々に季節感を味わっていただこうという取り組みにまで広がりました。外来や病棟に来られた方はお気づきでしょうか、クリスマスやお正月、お雛祭りなど季節の行事に応じた飾りつけをしています。そのことが話題の提供になり新たなコミュニケーションが生まれています。仲間達・病院を利用される方々に対しても積極的な取り組みがでてきたことは「フィッシュ」の精神そのもので、外来や病棟に「フィッシュ」が孵化し、稚魚が泳ぎはじめたといえます。今後、稚魚を大切にして鮮度のよい「フィッシュ」に成長させ、病院全体、病院を利用される方々の中にも泳ぎだすことを願っています。