〔巻頭言〕
思考停止の解除のすすめ
研究所長 諏訪 基



 少々とっぴな題名をつけさせていただいたことをご容赦ください。
 ここ2年ほど、国リハの将来ビジョンの検討作業に参加する機会を得ました。大変勉強になりました。
平成19年6月に「国立身体障害者リハビリテーションのあり方検討委員会」が国リハ内に設置され、検討結果をその年の年末に「国立身体障害者リハビリテーションセンターの今後のあり方に関する検討会中間報告書」として取りまとめられましたが、一連の作業にメンバーの一人として参加させていただきました。また、平成20年度には障害保健福祉部長の諮問に基づく「国立更生援護機関の今後のあり方に関する検討会」の報告書が3月にまとめられましたが、オブザーバーとして議論の推移を知ることができました。
 大変印象的だったことは、国リハでの作業が始まって間もなくのこと、国リハは各部門の連携を強めて、医療から福祉までシームレスな取り組みを可能とする組織でなければならないという方向性が確認されたときのことでした。実はこの方向性は国リハの設立の目標でもあったのですが、同じような反省に立った見直しが10年毎に行われていたのでした。今度こそは三度目の正直で、その徹を踏まない知恵を出さなければなりませんが、今度こそは大丈夫ではないでしょうか。
 少し考えてみれば判るのですが、医療部門と福祉部門の枠を超えてシームレスなサービスを提供する施設という目標に対して、達成を確実にすることができる組織設計ができていないのです。つまり、各部門の実施すべき業務が縦割りに定義されていますので、当初の願望が達し得ない道理になっていたのでした。最初の意気込みに反して、気がついてみると縦割り組織の弊害がしっかりと露呈してしまう構造だったのでしょう。
 外来や入院中の患者さんや更生訓練所の利用者の方々にとって本当に必要なサービスを提供したいという願望が職員の総意であると思われますので、今度こそは逆戻りをしない改革を実現することを納税者である利用者に約束することが可能と思います。
 ただし、一つだけ条件があります。それは、一人一人が願望を思い続けることであり、「思考停止」に陥らないことです。2年前の検討作業が始まったころは、この「思考停止」状態の職員がかなり見受けられたように感じました。最近はずいぶん雰囲気が変わって、前向きの議論が聞こえてきます。思考停止を解除した職員の数が増えてきたのではないかと喜んでいます。
 「思考停止」について少し整理しておきます。組織にとって将来に関して考えることが間違いなく不可欠であると考えます。思考停止に陥ることにより、(1)時代の流れ、社会からの要請の変化などが捉えられなくなる、(2)従って、発展とは無縁の組織となり、(3)その結果、社会から疎んじられる存在になる、という弊害が生じます。
 「思考停止」に陥る原因には、(1)考えても無駄だと思いこんでいるケースが大変多い、(2)思考停止を強要されている場合も過去にはあった、(3)自ら考えないことにより責任を取る必要が無い立場で有り続けると考える、などがあります。
 最後に思考停止を避ける方策を考えてみました。その第1は組織に関連する情報の公開と共有を進めること、第2には、構成メンバーが自ら進んで行う情報発信を尊重し、主体性を育てることです。
 個人はそれぞれ意見を持っているにもかかわらず、全体としての判断や行動に結びつかないことも、いままではいろいろあったと思われます。よく「思いは一つ」とか「以心伝心」など、日本人はとかく口に出さないでの連係プレーを尊重します。この際、思考停止状態を解除して、将来ビジョンの思いのたけを語り合うことが出発点ではないでしょうか。