〔国際協力情報〕 |
ミャンマーのリハビリテーション 強化プロジェクトについて |
更生訓練所長 江藤文夫 |
JICA(独立行政法人 国際協力機構)のミャンマーに対する「リハビリテーション強化プロジェクト」の運営指導調査団の一員として2009年7月6日(月曜日)から10日(金曜日)までヤンゴン市の国立リハビリテーション病院(NRH)を訪問しました。このプロジェクトは5カ年計画で2008年7月に開始され、目的は「ミャンマーにおいてリハビリテーションに特化したサービスを提供する国内唯一の医療機関であるNRHの強化と、医療的・社会的リハビリテーションに関連する機関の連携促進を通して、ミャンマーのリハビリテーションサービスの質を向上させること」です。
わが国の援助方針として「緊急性が高く真に人道的な案件」に該当し、JICAの援助重点課題の一つである「人道支援の社会的弱者を取り巻く社会環境の改善」に該当するものとして、事前調査に基づき計画されました。実施に当っては具体的な援助活動についてプロジェクト・デザイン・マトリクス(PDM)が作成され、両国間で合意されたわけですが、諸般の事情から開始時期は若干遅れました。さらに、PDMの実行においていくつかの問題点が明らかになりました。例えば、昨秋に数名の研修生を北京の中国リハビリテーション研究センターや日本の当センター他複数の関連施設に派遣し見学させる計画があり、当センターでも受け入れの準備をしていました。ところが、派遣団員が定まらず、年度末の3月にNRHのスタッフを含まない管理職に係る3名が短時間当センターを訪問したことは記憶に新しいことです。
そこで、昨年11月に運営指導調査団が派遣され、改めて活動計画の合意がなされました。今回は前回調査団の団長を務めた久野研二氏(国際協力専門員)が中心となって、社会保障課の中島啓祐氏と専門家助言者として私と大澤諭樹彦氏(秋田大学理学療法学助教)の4名が再び運営指導調査に当ることとなりました。ミッションは、前回合意された活動計画の実施状況の確認、前回確認されたミャンマー側・日本側の認識の差異に関するその後の協議状況の確認であり、さらにPDMに沿ってプロジェクトの目標・成果・活動及びそれらの指標に係る協議等ということでした。
JICAのミャンマーにおけるプロジェクトとしては、2000年4月から2005年3月まで5年間にわたる「ハンセン病対策・基礎保健サービス改善プロジェクト」があり、引き続きの援助として医療リハビリテーションに期待されたようです。2004年1月から2ヶ月間滞在した短期専門員によるミャンマーの病院内におけるリハビリテーションの現状が報告されています。その中に、今回訪問したNRH(報告書中にはヤンゴンリハビリテーション病院)についても記載され、当時のスタッフとしてPT(理学療法士)2名、PO(義肢装具士)等の医療技術者4名とありましたが、今ではPT10名、PO19名、MSW(医療ソーシャルワーカー)1名など状況は大きく変化していました。
医療リハビリテーションでは病院の機能に依存します。まず、急性期総合病院の状況を見ておく必要があると考え、ヤンゴン総合病院(YGH)の視察を希望しました。しかし、中央政府の許可が必要とされ、夜到着した時点で迎えに来てくれた調整員の河原氏によると「受け入れ側の予約は確認されているが、まだ許可が得られていない」ということでした。翌朝、政府の許可が確認され、予定通りYGHに向かいました。YGHではヤンゴン大学医学部の教授を併任するキミュラ医師が対応してくれました。英国連邦下の1899年に建設された古い建物が基本で、リハビリテーション科の病棟は新しい建物にありますが、病室は古い大部屋形式(ワード)で近代的な病院のイメージからはほど遠いものでした。天井が非常に高いので暑苦しさは感じませんが、窓は開け放しが普通なのか、病院内には鳥が巣を作っている風でした。病院全体の病床数は約1500床で、リハビリテーション科は1958年(日本の多くの施設より早く)に開設され50床を運用しています。入院患者の疾患分布は我が国と大差はなく、スタッフについてPTは26名、PT助手は5名いますが、OT(作業療法士)はいません。脳卒中患者は神経内科に入院し、リハビリテーション科の病棟に転科するか、NRHに転院してリハビリテーションを継続しますが、多くの片麻痺患者は伝統医療の病院へ転院するとのことでした。
午後から訪問し、3日間プロジェクトの活動について討議したNRH(写真1)の取り扱い対象としては切断が非常に多く、片麻痺の5倍近くいます。最も多いのは疼痛、外傷など筋骨格疾患です。切断については1986年以来国際赤十字の活動として専門職の養成を含めて整備されてきましたが、今年になって何かの理由で引き揚げたようです。JICAのプロジェクトには義足関係は含まれていません。PDMの上位目標に関して変更をする場合には上位団体(政府)との合意が必要となるそうです。事前調査団が来た時もこれほど密度の濃い討議は行われなかったというほど、NRHの責任者(スーパーインテンダント、JICA職員は病院長と呼ぶ)のモアン医師が自分の時間を調整して協議に付き合ってくれました。JICAの職員はタフで極めて有能であり、懸案は残るものの何とか木曜日の昼には今後の活動について合意をまとめることができました(写真2)。
リハビリテーションには多様な側面がありますが、医療面ではその国全体の医療水準に合わせた援助が投入されるべきでしょう。障害者の福祉では国民全体の生活水準や社会の構造にも配慮する必要があります。障害者の人権や差別の課題にも留意する必要があります。当面の支援課題として、リハビリテーションに従事する医師や、養成機関が存在しない作業療法士など人材育成にかかわる活動と、必要な施設や機材の整備が現実的で優先されるべきであり、ミャンマー側の受け入れ現場スタッフの期待も同様に感じられました。
当センターはJICAの協力機関として、人材養成に関わる支援に協力する機会があると予想されますので、職員の皆様にもミャンマーに対する関心をお持ち下さるようお願いいたします。
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写真1 国立リハビリテーション病院の病室。開院は1958年で、全体の定床数は50。 | 写真2 国立リハビリテーション病院での協議を終えて看護研修室にて撮影。前列中央が病院管理責任者のモアン医師。 |