〔魚拓シリーズ26〕
「飯蛸」
元更生訓練所理療指導室長 川政 勲



 飯蛸の分布は、東京湾から南、瀬戸内海から九州にかけて多く、生息域は零メートルから十メートルと浅い海に住んでいる。沿岸の貝や岩などに、米粒のような卵を産み付ける。
 蛸の仲間では飯蛸は小さい方、やっと8センチほどの可愛い蛸である。それでも肌はぶつぶつと刺だっているが、これは他の魚に見つからないように、岩や海草などに隠れても同じように見える擬態なのである。
 蛸の仲間は体を守る鱗も骨も無いから、場所に対する順応性が強く、すーっと泳いできて石や海草に乗ったとき、たちまち周りの色と一緒になる。
 飯蛸は卵が飯粒のようで、煮ると歯当たりが良くて大変美味、それで飯粒の入った蛸というのが名前になった。
 船の釣りが主で、飯蛸専用の二本針の付いた仕掛けに、ラッキョウを縛り付ける。代わりに最近では白い発泡スチロールなどを使う。目立つものに興味が及ぶらしい。直接餌を使う時にも白っぽいものが良く、サメの身や鳥のささみなどが使われている。この仕掛けを海底に降ろし、軽く小突きながらイイダコの乗るのを待つが、乗るとずずーっと重くなるので、一度合わせておいて、糸を緩めないように静かに上げてくる。
 この作品の飯蛸は、塩原視力障害センターから伊東重度障害者センターに転勤し、慣れていない肢体不自由の方々との初めての仕事の合間に、伊東港へ釣りに出かけた際に、初めて釣れた魚(?)である。
 蛸の体は柔らかく、上手く固定できないので、蛸の体に直接絵の具を塗り、和紙を被せて手のひらで撫でて写し取ったものである(墨を魚に塗って魚拓をとる直接法の魚拓のとり方)。
 

秋うらら一日だけの魚拓展  いさお



(図)飯蛸