〔巻頭言〕
平成22年 年頭のあいさつ
総長 岩谷 力



 新年あけましておめでとうございます。
 皆さんには、よいお年をお迎えのこととお喜び申し上げます。
 昨年1年、皆さんのご尽力によりまして、つつがなく仕事ができました。12月には職員が一丸となって30周年記念式典を盛大に成功裡に挙行できましたことをここに深く感謝申し上げます。
 今年は2010年、21世紀になって早くも最初の10年が過ぎました。この間、2000年の介護保険法、2001年のWHOによるICF改訂、2002年の障害者基本計画、2003年の支援費制度移行、2004年の障害者基本法の一部改正、WHO,UNICEF,ILOによるCBR joint position paper、発達障害者支援法、2006年の障害者自立支援法、2008年国連の障害者権利条約、2009年には政権交代と実に多くのことがありました。これらを通して、生活機能という概念が明確になり、新たな障害種別が認識され、障害の社会モデルが普及し、契約による支援サービス利用制度がはじまり、私達の仕事のあり方、仕組みも大幅に見直されました。
 これらに対応して、センターは変革に取り組み、組織の再編、新規事業など成果をあげてきました。私は、その成果を大きく評価し、それを成し遂げてきた皆さんの努力に敬意を表します。また、この仕事を一緒にできたことを誇りに思います。
 昨年3月に「国立更生援護機関の今後のあり方に関する検討会」報告書がまとめられ、これからのセンターの目指す方向が明らかに示されました。目下、玉川部長を中心に中期計画策定が進んでおります。また、病院は再開発に着手しました。平成22年は国立障害者リハビリテーションセンター再興の幕開けの年となりましょう。
 私は、昨年4月以来、これからのセンターは障害者の保健・医療・福祉に関する総合的臨床研究・開発・情報発信と人材育成の機関を目指すことをセンターの内外にお伝えしてきました。
 研究は、堅苦しいものと考える方も多いと思います。私は、私達が日々、利用者・患者の皆さんと接する中で感じる疑問、問題を共に考え、悩み、解決をはかり、それを情報として発信していくということが臨床研究であると思います。私達が利用者、患者の皆さんと心を通わせながら業務を行う時、必ず疑問や問題に直面します。その疑問は保健、医学、看護、リハビリテーション、制度、施設、設備、施設の仕組み、人間関係などなど、極めて多岐にわたり、多様でありましょう。自分の専門外のものもあるでしょう。センターにはいろいろな専門性を修得 した人がいます。独りで、一つの部署で解決が難しいときには、部門を越えて協力をして頂きたいと思います。
 医療、福祉サービスは心が通わなければ、いかに専門性が高くとも利用者の皆さんの満足が得られませんし、問題があってもとらえることができません。職員が自己満足するだけの職場となってしまいます。心が通い合う医療・福祉サービスを目指すところに研究が生まれます。相手を理解し、共感する心と好奇心をもって、問題に立ち向かっていきましょう。
 昨年は政権交代があり、何十年も続いた体制に変化の兆しが見え始めました。内閣には障がい者制度改革推進本部が総理大臣を長として発足し、障がい者制度改革推進会議が設置され、障害当事者の方を中心に制度改革に意見をのべ、調査、審議を行うこととなりました。自立支援法は廃止され、障がい者総合福祉法(仮称)が制定されると報道されております。「私達のこと抜きに私達のことを決めないで」という原則のもとに、新制度の設計が行われるようです。この自己選択・自己決定の原則は、今日では至極あたりまえのことと思います。しかし、この原則を制度として整えるためには、多くの調整が必要となりましょう。
 自己決定のためには、情報を取捨選択し、理解できる能力が必要です。その能力を高める支援が不可欠です。人として社会生活を営むためにどのような能力が、どのような支援が必要か、支援者である私達には、それらを適切に判断する能力が求められます。日常業務を通じて積み上げた研究成果は、これからの障害福祉制度の設計に必ず活かされると思います。
 一人一人が毎日の仕事を丁寧にし、力を合わせて疑問、問題の解決をはかり、これからのセンターを築いていきましょう。