〔巻頭言〕

30年前からのタイムカプセル

あるいは単なる懐古趣味

研究所 障害福祉研究部長 玉川 淳



 書類入れの整理をしていたところ、センターが開設されて間もない昭和55年に発行された無線従事者免許証を見つけました。そこには、徴兵されたかのような神経質な表情をした14歳の自分の写真が貼付されています。
 受験に際して過去に出された問題をまとめた本を購入して勉強したのですが、増幅回路には真空管が使われており、半導体(トランジスタ)は、最近の出題例として追補で載っているだけだったと思います(実際の試験では、真空管の出題はありませんでした)。
 今でもAM放送とFM放送の仕組みの違いについては、おぼろげながら記憶が残っていますが、その後の無線技術の進歩には完全に取り残されてしまいました。電波法が改正されて電話級アマチュア無線技師という免許の区分の名称がなくなってしまったものの、免許は生涯有効なはずです。
 この場合の免許は、行政法学から見れば、法令(電波法)による特定の行為の一般的禁止を公の機関(当時は郵政大臣)が特定の場合に解除し、適法にこれをすることができるようにする行為ということになります。なぜこうした取扱いが認められるかといえば、その者が一定の判断ないし技術をもった上でその行為に当たると考えられているからです。
 そういう観点からすれば、個人で無線局の開設許可申請をせず、高校のクラブ局でわずかな期間マイクを握っただけの当方は、リカレント教育なしに再度業務に従事するのは問題が多いにありそうです。
 もっとも、30年という年月は、それ以上に重要な社会的な変化を生み出していました。当時、海外を含む遠隔地にいる人達と直接会話を交わして生の情報を得るには、無線を使用することが最も有効な手段の一つでした。
 免許証をとることは、そうした世界へ飛び込むためのパスポートを手に入れることだったのです。
 その後、コンピュータ技術の革新によって電子メールをはじめとしたインターネット環境が世界規模で整うとともに、携帯電話も爆発的に普及することとなりました。最早、特別の判断ないし技術なしに遠隔地の人から直接情報を仕入れることが可能な時代に突入しました。一言でいえば、便利な時代です。
 その大量の情報処理能力と卓越した信頼性抜きには、今日のビジネスの多くは成立しない状況にあるのだろうと思います。また、誰もが比較的容易にコミュニケーションの輪に加わることができるのは、素晴らしいことだと思います。
 そうは理解しているのですが、古い免許証を手にすると、電離層の状態を心配しながらスイッチを入れて暫くした後に訪れる真空管のぬくもりと、目に見える(気がする)科学技術への素朴な畏敬の念が蘇るのです。