〔研究所長就任挨拶〕

バリアフリーづくし

研究所長 加藤誠志



 この度、諏訪基先生の後を受けて研究所長を拝命いたしました。自己紹介と今後の抱負を述べさせていただきます。
 私のこれまでの経歴を一言で表しますと、バリアフリーとなります。糸の切れた凧と評する人もいます。工学部を出た後、海外でのポスドク(一年毎契約の流動研究員のこと)、日本でのポスドク、大学医学部の助手、民間研究機関の研究員、そして国リハ研究所と、産官学の研究機関を渡り歩いてきました。その間、国の大型プロジェクト(ERATO)の研究総括やベンチャー企業の立ち上げにも関わってきました。研究内容も、合成化学、物理化学、筋生理学、遺伝子工学、分子生物学、ゲノム科学と変遷してきています。したがって、研究の場や研究分野を変えることには何の抵抗もなくなりました。
 9年前に、縁有って国リハ研究所の障害工学研究部長として赴任した時、国リハでなければやれない研究をやろうと考えました。当センターの病院や更生訓練所を訪れる視覚障害者の中で、網膜色素変性症の患者さんが一番多いということを知り、この疾患の原因遺伝子探索を行うことにしました。そこで、病院眼科と共同研究を実施し、69名の患者さんの協力を得て、病気の原因となる候補遺伝子変異をいくつか見つけることができました。またこの過程で国リハ発の独自の遺伝子解析技術を開発し、企業の力を借りて実用化まで持っていくことができました。
 これらの経験を通して学んだことは、障害者を支援するために本当に役立つ研究を行うためには、障害当事者はもちろんのこと、センター内の他部門との連携、さらには企業を含めたセンター外の組織を最大限に活用した研究体制をとる必要があるということです。今回策定されたセンターの中期目標にある「総合的リハビリテーション医療サービスの提供」、「センター横断的な事業推進」なども、部門間の緊密な連携が前提となります。諏訪前所長のご努力により、センター内ではバリアフリーな環境が醸成されつつあります。したがって、臨床現場と連携して研究をやりたいと考えている研究所の研究員が、病院や自立支援局の方々との共同研究を、これまで以上に実施しやすい体制が整ってきています。
 研究所の中期目標の一つとして、「総合的リハビリテーションにおけるコア・コンピタンス(中核技術)の確立」があります。この中核技術として、脳科学、ゲノム科学、ロボット工学などの最先端科学・技術を積極的に取り入れていきたいと考えています。これらの先端科学・技術は、障害の分野でこそ必要とされるものと思うからです。これらを用いれば、個々人の障害特性を精密に評価し、各個人に最も適したリハビリテーションや各種支援プログラム、支援機器を提供することが可能になると考えます。一方、障害者支援に際しては、ただ支援技術を開発しただけでは解決できない、制度的な問題も多々有りますので、本省とのパイプを太くして、政策策定にも貢献できるような研究の取り組みを強化したいと考えています。
 研究所には意欲的で有能な研究者が満ちあふれています。これらの皆さんが持てる力を存分に発揮すれば、多くの新しい障害研究分野を切り開いていけるものと確信しています。ただ、臨床現場で障害者の医療やリハビリテーションに日々従事されている皆さん方からのご要望・ご意見なくして、本当に必要とされる支援技術は作れません。センター内のすべての皆さんが一丸となって、これからの障害者支援のための新しい方向について、アイデアを出し合いましょう。所長室のドアは、もちろんバリアフリー、いつも開けっ放しです。皆さんのおいでをお待ちしております。