〔国際協力情報〕
帰国研修員レポート
管理部企画課


 今回は、南米のチリ共和国の帰国研修員(現在チリ国厚生省障害者リハビリテーション部門チーフ)に日本での研修後の活動について報告していただきました。また、今年の2月27日にチリを大地震が襲いましたが、その後の復興の様子についても最後にレポートしてくれています。


”日本での研修後の活動” Mr.Hernan Soto(エルナン・ソト)


 私は2002年の春に、JICAのチリ国身体障害者リハビリテーションプロジェクトの研修員として国立障害者リハビリテーションセンターで研修を受けました。最初にJICAのリハ専門家の研修プログラムについて知ったのは1997年でした。その時私は勤務しているチリ国立ペドロ・アギーレ・セルダリハビリテーションセンター(INRPAC)病院で、長期間の治療、訓練の後に患者さん(児童と青少年)が在宅生活をする際に生じる問題の解決策を探していました。というのは、家に戻った多くの患者さんはそのまま家にいるだけなので、数週間後に病院に戻って来るのです。時には退院時より悪い状態になっています。
 そんな時、JICAが広島で行う集団研修の“地域の中核病院との連携による総合的地域ケアシステムコース”を知り、ここに私が求めている解決策があると思い、1998年の研修に参加しました。研修から帰国した初日に、私は研修で学んだ事を基に新しい在宅サービスを開始し、同時に“障害がある人々のリハビリテーションシステム”に関する日本とチリのプロジェクトを計画しました。
 このプロジェクトは実現し、2000年から2005年までJICAの“チリ国身体障害者リハビリテーションプロジェクト”として実施されました。チリ国におけるリハビリテーションシステムとCBR(地域に根ざしたリハビリテーション)のサービスが日本の国立障害者リハビリテーションセンターの専門家を中心にした協力で開発されました。当時の長岡診療部長、歴代の総長である中村総長、佐藤総長、岩谷総長をはじめ、元学院長の矢野先生や国際協力のスタッフ、心身障害児総合医療療育センターの児玉先生、その他多くの人々の協力がありました。私が研修を受けたのは2002年で、これらの専門家がリハビリテーションに関する新しい視点を私達にもたらし、総合的リハビリテーションとインクルージョンの考え方をチリ国のリハビリテーションシステムの構築に取り入れることを支援してくれました。研修から帰国した後、私はチリ国厚生省の障害者リハビリテーション部門のチーフとして仕事をすることになりました。これは私にとって日本で学んだことを生かす大きなチャンスとなりました。
 私達はゼロからスタートしましたが、今では“障害の予防とリハビリテーション”はチリ国厚生省の政策となり、2007年には国の政策としてのリハビリテーションサービスに対する予算を獲得することができました。これは、日本の長期に渡る協力の成果として歴史的な意味を持つものです。現在、チリ国内には70ヶ所の地域リハビリテーションセンターがあり、毎年10の新しいセンターができ、私達が作ったリハビリテーションネットワークに入っています。最初にできた地域リハビリテーションセンターの17ヶ所と障害がある人々が使用する自動車を造るのに、在チリ日本大使館が財政支援をしてくれました。2007年から2009年の間にチリ国内のほとんどの地に56ヶ所の新しい総合リハビリテーション部門が設置され、9つの病院がリハビリテーションサービスを導入し、INRPACとの協力を行っています。これにより新たに約25,000人が地域でリハサービスを受けることができ、更に多くの人々が政府のリハビリテーションの財源を利用してサービスを受けています。
 私達は日本から学んで得た知識や経験をチリ国内で実践しましたが、更にその経験をラテンアメリカの他の国々にも広げることになりました。
 2005年には“リハビリテーションに関する総合的、統合的政策とプログラムデザイン”と題した国際研修コースをスタートしました。これはラテンアメリカの教育、保健、障害とリハビリテーションに関する政策決定者のためのコースで、これまでに14ヶ国の4グループ、74名の専門家が研修を受けました。
 また、日本とチリの間で結ばれた日本・チリパートナーシッププログラム(JC(第3国に技術移転をすることを目的として日本とチリが50%ずつの資金を出し合い、第3国の開発を支援する事業)に基づき、私達は以下の活動を行っています。
 コスタリカの国立リハビリテーションセンターでの“バイオ・ソーシャル統合プロジェクト”(2005年)
 パラグアイの教育・文化省において“リハビリテーション向上プロジェクト”(2009年から)
 ボリビアの保健・スポーツ省との協力でマイヤー・サンアンドレス大学での“言語療法と作業療法プロジェクト”(2010年から)

 この他に現在、エクアドル、ドミニカ共和国、ハイチから私達への協力要請が来ています。
 日本は私達をパートナー、友人、同僚として迎えてくれ、またチリ国の文化を尊重してくれました。政策を行う立場から、また個人としても言いたいのは、日本の協力によりチリ国におけるリハビリテーションにかかわる多くの事が変わり、それがラテンアメリカの障害がある人々のための開発に生きているということです。
 最後に、去る2月27日にチリを襲った大地震のその後の状況を簡単に報告します。地震により多くの人々と建物が被災しましたが、4月末現在2,000世帯が住む家がなく、臨時の避難所に住んでおりこれから冬を迎えます。実際20,000の家屋が被害を受け、その40%が倒壊しました。ある地域では95%もの家屋が倒壊しました。一方で避難生活をしている人々も含め、現在は100%の子供達が様々な支援により授業を受けることができています。
 日本政府はチリ国の保健に対して約2億8千万円の寄付をしてくれました。この地震で17の病院が深刻なダメージを受け、病院の再整備には少なくともあと5年はかかりそうです。プロジェクトの関係では、INRPACは建物に被害はありましたが、職員は無事でした。5つの地域リハビリテーションセンターが被災し、そのうちの2つは倒壊してしまいました。そこで、私達は別の地域センターに被災したセンターの機能を移転しましたが、被災した地域の障害がある人々にとっては、幹線道路が被災していることにより、移転した場所へのアクセスの問題と、これから冬になるため、寒さによる健康状態の悪化が心配です。
 チリ国民は被災からの復興に5〜6年の期間と膨大な経費がかかると考えていますが少しずつ国民の顔には笑顔がもどりつつあります。私達は日本をはじめとする世界の国々の支援に感謝しています。


(写真1)2008年にチリで開催したラテンアメリカを対象にした国際研修コース(前列の向かって右端が筆者) (写真2)地震の直後の被災住民
2008年にチリで開催したラテンアメリカを
対象にした国際研修コース
(前列の向かって右端が筆者)
地震の直後の被災住民