〔国際協力情報〕
JICAミャンマーリハビリテーション強化プロジェクト派遣報告
理学療法士長  関口 進


 平成22年7月19日から7月24日まで、JICA(独立行政法人 国際協力機構)が行っているミャンマーリハビリテーション強化プロジェクトに協力するため、ミャンマーに2度目の訪問をしました。
 ミャンマーとの関わりは平成19年に当時診療部長でいらした山崎裕功先生とミャンマー連邦リハビリテーション強化プロジェクトの事前評価で訪れたことから始まっています。この時は山崎先生を始め5名の団員の方とご一緒しましたが、皆さん英語が堪能でしたのでどこでも安心して後ろからついて行くだけでした。今回話をいただいてから参加が決まるまでが急で、その上ひとりで行くと聞き、日本語しか分からない上に行き帰りの途中での乗換えを考えると、出発前には講義の事よりも乗り換えはうまく行くだろうか、見知らぬ国へは行かないだろうかと思い、胃の辺りが重くなりかなりのプレッシャーがありました。ミャンマーまでは成田からタイのバンコクまで4時間30分、バンコクからミャンマーのヤンゴン国際空港までは1時間弱で着きます。バンコクでの乗り換えは行きも帰りも2時間程度の待ち時間がありましたが、どうやら無事に済みました。時差はマイナス2時間30分。到着したミャンマーの7月は雨期でしたので、太陽が見えていたのは訪問していた1週間のうちで1〜2時間程度でした。雨は一日中降っているわけではなく降ったり止んだりの繰り返しで、今年は雨が少ないとの事でした。湿度は高く感じましたが、気温は出発前に梅雨が明けた日本の方が暑く感じました。
 前回の時は関連行政、関連病院およびCBR(Community Based Rehabilitation:地域に根ざしたリハビリテーション)実施機関の現状を調査分析することを目的として、2週間で6ヶ所の病院、NGOを訪問し見学しました。
 今回のリハビリテーション強化プロジェクトは、2008年にスタートしたJICAとミャンマー保健省による5年間のプロジェクトであり、(1)リハビリテーションサービスに関するNRH(National Rehabilitation Hospital:国立リハビリテーション病院) の訓練システムの向上、(2)NRH におけるリハサービスの質を改善するシステムの強化、(3)NRH と社会福祉省関連施設を含むリハ関連施設との連携の向上という3つの成果を上げることにより、NRH における質の高いリハサービスを提供するためのシステムを強化することを目的としています。
 講義を行ったTraining of Trainer(TOT)は、経験豊富な理学療法士への教育を行い、その修了者が今後の理学療法にかかわる卒後研修に携わる指導者となるために行われ、今回は脊髄損傷がテーマとして採用されています。Training of Trainer(TOT)は3週間ミャンマーの専門家を中心に講義が行われますが、対応できない部分を日本人専門家が補うということで今回の訪問となりました。受講者は7年以上の実務経験を持つ理学療法士であり、NRHやそれ以外の病院、大学から20名が参加し全員が女性でした。開催場所はヤンゴンにあるNRHにて行われ、ヤンゴンの中心地から車で30分のところにあり、ヤンゴン国際空港との間にあります。講義場所はNRHの1ヶ所だったので、滞在期間中はホテルとNRHの往復でした。担当した内容は脊髄損傷の理学療法評価からプログラム立案までと車いすに関する基本的な知識についてでした。講義を行った部屋は扇風機が6台ありましたが訓練室にはクーラーはなく実技を行った時には緊張と暑さでかなり汗をかきながら行いました。
 車いすの講義は種類や採寸の意味などを話しましたが、現在ミャンマーではオーダーメイドで作製することはできず、使用している車いすも古いものですが、少しでも車いすを見直してもらい今後の刺激になればと思いました。
 車いすに関して、取得が困難であることから退院する時にあれば良い方で、街の道路は舗装がしてあるが歩道は一段高くなって狭く、郊外では路肩は舗装していないところがほとんどで走行は難しそうでした。自動車への移乗も映像で見てもらい説明をしましたが、自動車は中古であっても高価で個人での購入は難しいなど問題は多々ありそうです。
 ゴール設定の話をしても、ミャンマーでは病院に家族が付き添い食事から介護、練習の介助まで行う事が普通で、車いす動作を自分で行うことにぴんとこないようでした。ゴールはあくまで歩行であり、練習は起居動作や車いすの移乗動作ではなくバランス練習や四つ這い保持を集団で行い、その後下肢に副木を当て包帯で固定し、平行棒内で立位練習をご家族と一緒に行っていました。受講されている方は真面目に話を聞いて質問もされましたが、痙性を落とすにはどのようにしているのか、歩行練習はどのようにしているのかと歩行に関する質問がほとんどでした。
 1週間と短い期間でしたが、講義や話をしている内に日本とミャンマーの脊髄損傷者に関する理学療法、考え方、環境などの違いが少し分かってきたような気がします。受講者に刺激を少しは与えられたかと思いましたが、日本以外の理学療法を見ることによりそれ以上に刺激を与えられたようです。年末にはミャンマーから医師、看護師、理学療法士をむかえて本邦研修の計画が進められています。

(写真)扇風機6台の部屋で講義   (写真)扇風機、クーラーなしの訓練室で実技
扇風機6台の部屋で講義   扇風機、クーラーなしの訓練室で実技