〔巻頭言〕

就任挨拶

江藤文夫



 このたび、岩谷力前総長の後任として国立障害者リハビリテーションセンター総長に就任いたしました。歴代の総長、そして諸先輩の方々が築いてきた本センターの優れた業績と歴史を思うと身が引き締まる思いで一杯です。微力ではありますが、障害のある人々の活動と参加を支援し、QOLを高めることに役立ち、センターの発展に尽力する所存であります。皆様よろしくお願いいたします。
 本センターは発足以来32年目を迎えようとしています。21世紀を迎えようとする頃から、世界はグローバル化の流れを加速し、事業効率の向上やイノベーションを求める空気の中、社会は変革を追い求めて来たように感じます。生き残るためには変わらなければならないといった論調もあります。意識すべきはどのように変わるかです。本センターも障害者福祉の有り様が変化し、時代のニーズに適った役割を果たすべく議論が繰り返されてきましたが、前総長の卓越した指導力と行動力により、この5年間に進むべき方向を定め、急速に変革が推進されてきました。
 2006年に施行された障害者自立支援法に伴い、更生訓練所は同年10月からは埼玉県の指定障害者支援施設として事業活動を展開してきました。その中で理療教育課程は就労移行支援(養成施設)となり、同時に「あはき師養成施設」及び「専修学校」の位置付けがなされています。そして2008年10月、身体障害中心から障害全体を視野に入れたナショナルセンターへ機能を再編するため、組織名称を「国立障害者リハビリテーションセンター」に改め、更生訓練所の組織の見直しがなされました。また、この年度に本省で「国立更生援護機関の在り方に関する検討会」が設置され、その報告書において「統一的な方針の下での質の高いサービスの提供及び時代のニーズに即応できる体制の整備」として国立更生援護機関機能の一元化が示唆されました。この報告を受けて2010年4月、センターの組織改正が行われ、更生訓練所は自立支援局と名称が改められ、函館、塩原、神戸、福岡の視力障害センター、伊東、別府の重度障害者センター、並びに国立秩父学園が自立支援局の内部組織となりました。
 さて、1600年ほど昔の中国の文人に陶淵明(靖節先生)という人がいます。その有名な作品の中に「已往の諫められざるを悟り、来者の追うべきを知る」という句があります。また、別に雑詩に分類される詩文の中で、「時に及んで当に勉励すべし、歳月は人を待たず」とも詠んでいます。これらの句は、その詩全体、或いは前後の文脈で理解すべきものではありますが、部分だけを取り出して論じられることもあります。すなわち、「二度と来ることのない今を大切にして、未来の夢や理想の実現に向かって努力しよう」ということです。32年のセンターの歴史ではいくつか節目の年があったと思います。現在は、そうした節目の中でも最も大きな変換点かもしれません。多様な価値観が許容され、障害のあるなしにかかわらず、人種や性別に関わりなく、自分の人生を充実して全うできる社会が容易に実現するとは思えません。しかし、障害のある人々の医療と福祉を充実させ、そのための技術開発、人材育成に関わる事業を発展させることは、すべての人々の幸福度を高める社会の構築に貢献するものであると信じます。
 利用者主体のサービス提供を第一に、障害のある人々の医療と福祉サービスの充実、生活の活動と参加を最大限可能にするための各種技術や機器の開発、これらに関わる人材育成事業を発展させるため、自立支援局、病院、研究所、学院、そして管理部が一体となって、信頼と協調の和を大切にして、新しい時代を拓いていきたいと願っております。