〔部門間連携〕
青年期発達障害者の地域生活移行への
就労支援に関するモデル事業成果報告について
病院 臨床研究開発部 深津 玲子


 現在青年期・成人期における発達障害者への支援については、喫緊の課題として医療、福祉、労働等の領域で取り組みが始まっているが、福祉サービスの支援手法については確立したものがない。また社会的ひきこもりのなかに、明らかな知的障害のない発達障害者がいることが知られ、発達障害者支援センター等では移行支援に苦慮している。こういった背景をもとに、国立障害者リハビリテーションセンターでは平成20年度より発達障害成人に対する地域生活移行のためのモデル事業を開始した。当事業は、障害福祉制度下において、青年期発達障害者就労移行支援のための地域モデルを構築し、障害福祉サービス事業である自立訓練と就労移行支援を行い、支援手法について検討することを目的とした。


図1 モデル事業の流れ

図1 モデル事業の流れ

 対象は18才以上で、中等教育学校卒業相当以上の学力を持ち、就労、就学を希望するも適切な支援が必要な青年期発達障害者とした。埼玉県発達障害者支援センターまほろばに就労相談目的で来談した発達障害(未診断を含む)成人に対して募集を行い、応募者に広汎性発達障害日本自閉症協会評定尺度(PARS)、高機能自閉症スペクトラム指数(AQ-J)、生育歴等を含む成人版問診票を一次スクリーニングとして施行した。その後国リハ病院発達障害診療室にて医学的診断および身体機能、認知機能等の評価を行い、モデル事業対象者を決定し、本人同意の上自立支援局で自立(生活)訓練、就労移行支援を試行した。その後就労したものには職場定着支援をすると同時に障害者就業・生活支援センター等の地域支援機関へつないだ。また職業リハビリテーションセンターを経由して就労を目指すケースも想定した。このモデル事業の地域モデル(所沢モデル)を図1に示した。

 平成20年度は所沢モデルの構築のため特に発達障害者支援センターまほろばとの連携体制の確立、病院発達障害診療室の開設、自立支援局の発達障害支援チームの結成など事業実施体制の整備を行い、対象者への自立(生活)訓練、就労移行支援を開始した。21年度は事業の継続とともに所沢モデルに地域支援機関を加え拡充を行った。22年度は事業の継続とともに発達障害成人に対する生活訓練、就労移行支援を提供する上での支援手法の課題整理を行い、この知見を障害者支援施設における就労移行支援のポイント集として作成を開始した。

 所沢モデルの特徴は図1に示した福祉―医療―福祉―地域と支援の主体が移る際に事前に情報が共有されることである。これは当然当事者および家族の同意を受けた上であるが、様式を整えた文書およびカンファランスへの出席によって発達障害者支援センター、病院、自立支援局、地域機関が利用者の支援の課題と方向を共有した。そのことにより環境の変化が苦手な発達障害者に、ぶれのない支援を続けることができたと考えている。また今回発達障害者支援センターにおいて一次スクリーニングを行うこととし我々が情報提供を受けたが、支援センターはこれを負担増加というとらえ方をしなかった。事前に患者情報としてPARS、AQ-Jおよび生育歴を含む問診票が得られたことは、医療機関にとっては大変有益であった。

 自立支援局では発達障害支援チームを結成し、モデル事業の間常時2〜5人の対象者を受け入れた。支援チームは通常業務に加えて発達障害対象者の担当を担い、一般利用者同様アセスメントに基づいて個別支援計画書を作成し支援を提供、定期的に病院発達障害診療室、発達障害者支援センターまほろば、地域支援機関を加えた合同カンファランスを開催し、個別支援の検討や見直しを行った。22年度までのモデル事業対象者を表1、訓練実施時間を図2に示した。訓練実施期間は3〜22ヶ月で平均11.4ヶ月であった。発達障害者は社会生活場面における体験が極めて乏しいこと、問題解決方略を習得してもその般化が困難であることなどから、従来の生活訓練から就労移行支援へという一方向的な支援の流れにはなじみにくく同時並行あるいはスパイラルに支援を展開することが必要であった。すなわち技術習得を前提にした訓練ではなく、生活、就労場面にまたがる多様な体験中心の訓練体系への転換が有効である。 就労を含む地域生活移行にむけては、作業習慣の確立、就職に必要な知識・技能の習得などの職業的な課題のみならず、身体バランス等の身体機能面、セルフケアやコミュニケーションなどの社会生活力に至る多様な課題があり、また個人差がきわめて大きい。支援を有効に行うため、従来の生活支援員、就労支援員、職業指導員に加え、OT・PT・心理支援員からなる支援チーム対応が必要と考えられる。 経験した11例を通じて共通、類似した課題がある一方で、それぞれの特性、個人差は大きく、画一化した支援プログラムやツールを適用することは困難であり、個別性を重んじ、できる限りマンツーマンによる訓練をベースにする必要がある。またモニタリングを通して、柔軟に支援内容や手法の見直しをはかることが重要であり、このモニタリングには応用行動分析が有効であった。 共通の障害特性として、他者の相貌認知、役割認知、関係性の理解が苦手であることから、当事者にとって混乱の少ない安定した支援体制を整備するため、支援チームは訓練環境の中に一極集中し、見える形で構造化を図る配慮が大切である。


 モデル事業を通じ、自立支援法による自立(生活)訓練、就労移行支援は発達障害者の就労支援の選択肢の一つになり得ることが示された。今年度は24年度の一般事業化に対応すべくモデル事業を継続し、サービス利用のすりあわせを行う。また障害者支援施設における就労移行支援のポイント集を6月に刊行予定である。モデル事業を進めるにあたり発達障害者支援センターまほろばを中核に障害者就業・生活支援センター等地域機関との連携を前提とした支援体制を確立したことが大きな成果であった。今後同様の環境作りを他の地域へ広げていくことができるかが重要と考えている。


表1 モデル事業対象者
ID 性別・年代 診断名 帰結
R1 男性・30代 アスペルガー障害 在宅
R2 男性・20代 自閉性障害 就職活動継続
R3 男性・20代 特定不能広汎性発達障害 就職
R4 女性・10代 特定不能広汎性発達障害 大学進学
R5 男性・20代 特定不能広汎性発達障害 就職
R6 男性・20代 アスペルガー障害 就職(側リハ経由)
R7 男性・20代 アスペルガー障害 就職
R8 男性・20代 特定不能広汎性発達障害 中止
R9 女性・10代 特定不能広汎性発達障害 就職
R10 男性・20代 自閉性障害 継続中
R11 男性・20代 特定不能広汎性発達障害 継続中


図2 モデル事業対象者訓練時間

図2 モデル事業対象訓練時間