〔国際協力情報〕
障害に関する世界報告書について
総長 江藤文夫


 本年6月9日、ニューヨークの国連本部でWHOと世界銀行による「障害に関する世界報告書」の刊行を祝う式典が挙行されました。エビデンスを強く意識して編集執筆された障害に関する世界初の報告書であり、私たちにとって重要な内容を多く含むことから、本書の概要について紹介します。なお全文(英文)及び要約版(英文)はWHOのインターネットホームページにアクセスしてご覧になれます。
 本書の刊行にいたる背景は、2005年5月の世界保健総会決議58,23がWHOに対して、最良で入手可能なエビデンスに基づく障害に関する報告書を作成するよう求めたことにありました。そこで、WHOにおける障害とリハビリテーション(DAR: Disability and Rehabilitation)チームが中心となって、報告書作成のプロジェクトが立ち上げられ、多くの専門家や当事者が協力し、約5年の歳月を費やして完成されました。
 本書は、国連の権利条約の中身の実現に向けて全体的指針を提供するものでもあり、障害のある人々の全体像、そのニーズの実状、社会での完全参加を妨げるバリアを示しています。各章のタイトルは、障害の理解、障害の全体像、全般的な保健とケア、リハビリテーション、補助と支援、可能性を高める環境、教育、仕事と雇用、そして将来に向けての勧告からなっています。各領域に関して、各国で参考となる具体的な実践例も紹介されています。
 報告書の主な内容、論旨を以下に紹介します。

  1. 障害へのアプローチでは、この数十年間で流れは医学的理解を離れて社会的理解に向かいつつあり、権利条約はインクルージョンを妨げる環境バリアを取り除くことを強調する流れを反映しています。
  2. 世界中で障害のある人々の数は十億人以上で、その中の1億1千万〜1億9千万人は非常に重度の困難を体験していると推定されます。これは世界人口の約15%に当り、以前にWHOが推定した1970年代当時のデータでは約10%の数字を示唆していました。この障害人口の増加は、主として加齢と慢性疾患の全体的な増加によるものと考えられます。
  3. 障害はいわゆる弱者層に反映されやすく、障害は女性、高齢者、貧困家庭でより多く、また低所得の国々は高所得の国々より障害存在率が高い傾向が認められます。
  4. 障害は極めて多様で、障害体験の幅は非常に広いものです。障害は不利益と相関しますが、障害のある人々のすべてが等しく不利益を負っているわけではありません。就学率は、肢体不自由のある子供たちでは一般的に、知的障害あるいは感覚障害のある子供たちより良好です。労働市場で最も除外されているのは精神障害や知的障害のある人々です。より重度の機能障害のある人々はより大きな不利益を体験することが多いようです。
  5. 障害のある人々は各種サービス(保健、教育、雇用、移動、および情報)の利用において広範囲のバリアに直面しています。これらには不適切な政策や基準、否定的な態度、サービス供給の欠如、不適切な情報とコミュニケーション、当事者による決定への参加欠如などが含まれます。
  6. 世界中で、障害のある人々は障害のない人々と比較して、健康状態が不良で、教育水準が低く、経済的参加が少なく、貧困率が高い傾向が認められます。
  7. 障害のある人々が直面するバリアの多くは回避しうるものであり、障害に伴う不利益は克服することができるはずです。
  8. 以上の知見に基づき、各国のさまざまな関係者へ以下の勧告がまとめられました。
    (1) すべての主流の政策やシステムやサービスの利用を可能にすること。
    (2) 障害のある人々へのプログラムとサービスに投資すること。
    (3) 国家的な障害戦略と行動計画を採用すること。
    (4) 政策、法律の立案、サービスの提供において障害のある人々を含めること。
    (5) 人的資源の能力を向上させること。
    (6) 十分な資金提供をして、利用しやすさを改善すること。
    (7) 障害について一般の人々の意識と理解を増大させること。
    (8) 障害に関するデータ収集と質を向上させること。
    (9) 障害に関する研究を強化し支援すること。

  ※障害に関する世界報告書
   全文(英文)のURL
   http://www.who.int/disabilities/world_report/2011/report.pdf
   要約(英文)のURL
   http://whqlibdoc.who.int/hq/2011/WHO_NMH_VIP_11.01_eng.pdf