〔巻頭言〕

時代の変化と情報と視点

自立支援局長 中村 耕三


 私の親戚には高齢者が多く、ここ数年骨折や脳梗塞、熱中症などでよく入院している。見守りや介護など日本中でおこっている問題がわが家でも実際におきている。これらの疾患はいずれも加齢や生活習慣の影響が大きいものである。糖尿病や高血圧などメタボリックシンドロームは、学会の活動、行政の取り組みがありこの数年一般にもよく知られるようになった。骨折・関節障害といったロコモティブシンドローム(運動器症候群)も学会による広報活動の甲斐もあり、まだ十分ではないが少しずつ社会に浸透しつつある。親戚で既に問題が現実となっている高齢者だけでなく、その予備群である私自身も含め、わが家はメタボ対策、ロコモ対策の毎日である。

 6月に自立支援局への着任以来、各地の障害センターなどを訪れる機会をいただいている。そこで課題としてしばしば採りあげられることのひとつに障害のある人の高齢化がある。これは障害のある人にさらに高齢者としての不調が加わるということで、事態は複雑となる。人口の高齢化にはさらに、加齢が関係する疾患等による中途障害の問題がある。緑内障や糖尿病性網膜症などにより人生半ばで視覚障害者となる人も多い。頸髄損傷についてもこれまでの若年者の事故だけでなく、中高年の人が脊柱管狭窄をベースとして頸椎の過剰伸展による頸髄損傷(四肢不全麻痺)となる人を診る機会が多くなっている。自立支援決定会議では中年にかかる年齢の人、主たる障害のほかに併存する障害をもっている人、生活習慣病の要因である肥満が指摘される人などが多い。障害者施策としてライフサイクルの全段階を通じた総合的な支援や、障害の特性を踏まえた利用者本位の支援が必要とされる所以である。
 これらのことは、障害に携わる人には良く知られたことである。しかし、これらの情報が社会一般の人々にまでよく知られているかについては考えてみる必要があろう。障害白書のなかでも、施策の一番にあげられているのが啓発・広報活動である。

 3月の東日本大震災、原発事故の収束が未だみえないなかで、地震対策の在り方が議論されている。「想定外」と言う言葉がよく使用されるが、実際はこの地震規模や津波を想定していて「想定外」という言葉に悔しい思いをしている人もいると聞く。必要な情報を社会に発信し、世の中の人に知ってもらうことは非常に難しいということを今回の震災を通じて再認識させられた。新たな視点で情報を収集し、対策を再構築し、発信するいっそうの努力が必要なのである。対策は例えば100年前のそれとは異なっていなければならない。身近な例でいえば東京で起こった帰宅難民や幹線道路の大渋滞などは100年前には起こらなかったであろうし、また原発のない時代であればもう少し早く復興への道筋がついたはずである。しかし、今は原発があり、人の都市集中化があり、またすみやかな移動が困難な高齢者の増加があるなど社会の有り様が変わっている。これまでの地震対策に加えて、これらの社会の変化を考慮にいれた新たな視点で地震対策を見直すことが必要なのであろう。

 2009年における我が国の平均寿命は男性が79.6歳、女性が86.4歳で世界一の長寿国となっている。さらに2010年の発表では65歳以上の高齢者は2944万人で、高齢者人口の増加は今後20年間続き、また、高齢化率は45年間上昇し続けて40.5%に達するという。このような超高齢社会となり、社会のインフラが複雑になった時代を迎えて、障害についても新たな視点で対策を考え、それに資する情報を発信していくことが必要と思う。