〔学院情報〕
幼児吃音の治療法−Lidcombeプログラム−
に関するワークショップに参加して
(オーストラリア出張報告)
学院 言語聴覚学科 坂田 善政


去る9月8・9日、オーストラリアのシドニー大学で開催された、Lidcombeプログラムに関するワークショップに参加した。Lidcombeプログラムとは、シドニー大学に設置されているオーストラリア吃音研究センターの研究者と、Bankstown健康サービス吃音ユニットの臨床家によって開発された、幼児吃音の治療プログラムである。そのエビデンスレベルは、各国で行われている様々なアプローチの中で最も高く、現在世界中の臨床家から注目を集めているプログラムでもある。
私は今年度、財団法人日本学術振興会科学研究費補助金 基盤研究(B)「言語の普遍性と個別性を考慮した言語障害の症状の解明とそのセラピーの探究(研究代表者:豊橋技術科学大学教授 氏平 明)」において「吃音と構音障害の言語学的側面を考慮したセラピーの考案」を担当する分担研究者となっている。幼児吃音に関する新たなアプローチについて検討する上でLidcombeプログラムについて理解を深めることは必須であるため、この研究の一環として、今回のワークショップに参加した。
LidcombeプログラムのLidcombeとは、シドニー近郊にある町の名前である。シドニー中央駅から電車に15分ほど揺られると、ほどなく会場の最寄り駅であるLidcombe駅に着く。駅からバスで5分ほどでシドニー大学Cumberlandキャンパスに到着する。このキャンパスにあるオーストラリア吃音研究センターにほど近い建物の一室で、ワークショップは開催された。
会場には、講師であるVerity Macmillan先生とMary Erian先生のほか、40名の言語聴覚士が集まった。オーストラリア以外からの参加は私のみであったが、皆、臨床現場で幼児吃音のケースを実際に担当している言語聴覚士である。
スケジュールは両日とも午前9時から午後5時まで。モーニング・ティーとランチ、アフタヌーン・ティーという3回の休憩を除いては、講義と演習、グループディスカッションが続く。グループディスカッションの際はもちろんのこと、講義中も盛んに質疑応答が行われた。講義や演習では臨床場面のビデオが頻繁に用いられ、クリップの数は実に34を数えた。この映像によって、文献のみでは理解することの難しかったLidcombeプログラムの実際について理解が非常に深まった。また、Lidcombeプログラムについて学ぶ以外にも、休憩時間には他の参加者からオーストラリアにおける吃音治療の現状について話を聞く機会を多くもつことができ、有意義であった。
このプログラムは、実施する前にLidcombeプログラム指導者協会が主催する正規のワークショップ(今回のワークショップもこれに該当する)に参加することが強く推奨されている。しかしながら、現在までにこのワークショップに参加した経験をもつ日本の言語聴覚士は、私を除くと北里大学の原由紀氏のみとのことであった。帰国後、原先生とも情報交換を行ったが、北里大学では現在、日本へのLidcombeプログラムの適応可能性を探っている段階とのことである。
今回のワークショップに参加しての何よりの収穫は、Verity Macmillan先生とMary Erian先生から、Lidcombeプログラムを日本で行う上でのスーパーバイズをご快諾いただけた点である。日本でLidcombeプログラムを行うには様々な工夫が必要であることが予想されるが、今後は当センターでもこのプログラムの適応可能性を探っていきたい。
今回は、到着した7日こそ会場の下見の後、有名なオペラハウスとハーバーブリッジ周辺を散策する時間をとることができたものの、8・9日は終日ワークショップに参加するのみで終わり、翌10日は午前8時15分発の帰国便に乗るため午前5時半にホテルを出発。慌しい日程ではあったが得たものは多く、充実したオーストラリア出張となった。

写真1 ワークショップの様子<   写真2 Verity Macmillan先生(右)とMary Eriam先生(左)
写真1
ワークショップの様子
  写真2
Verity Macmillan先生(右)と
Mary Eriam先生(左)